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恋の掟は春の空

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静かな声とその響き


「では、始めます」
大きな声が夕暮れの聖堂内に響き渡っていた。

「誓いの言葉」
「ここに、シメオン静劉・柏倉と直美が愛の誓いを交わします」
ステファン神父の声が始まっていた。

「あなたたち二人は 思いやりの心を大切にし、お互いを信じ、心を一つにし、愛し合うことを誓いますか」
  「はぃ 誓います」 直美もたどたどしくつづいていた。
「お互いを尊敬しお互いの成長を喜び、お互いの存在に感謝することを誓いますか」
  「はぃ 誓います」
「幸せな時も、災いの時も貧しい時も健やかなる時も、病める時も、お互いを愛し、慰め、命の限り、真心を尽くす事を誓いますか」
  「はぃ 誓います」 
俺の声も直美の声も少し震えていたけれど しっかりと答えていた。
「これは、結婚の誓いではありませんが、彼女を愛し、また彼を愛する事への誓いです。いいですね。今の気持ちを決して忘れぬように」
ちいさく うなづいて、お互いの瞳を見つめ合っていた。
「では ここに 愛の誓いを立てたものとし、神と共に祝福をいたします。アーメン・・」
「アーメン」俺も直美も、そして若い神父も続いていた。
そして 背後でもう一つの「アーメン」が響いていた。
あわてて振り返ると、叔父さん夫婦が立っていた。

「いやー いいもの見せていただいたわぁ」
叔母さんの声だった。ハンカチで目元を少しぬぐっているようだった。
「いやー ほんとうだ。ちょうどいいときに帰ってきた」
叔父は言いながら近づいてきていた。
「ありがとう ございますステファン神父。とてもすばらしいものを見せていただきました。」
叔父はステファン神父に深々と頭を下げていた。
「いえ、こちらこそ、前々から機会があればと 考えていた事ですから・・無理やりにさせてしまったかもしれません・・・」
叔母ももう 横に立っていた。
「素敵だったわよ、直美さん」
叔母は直美の顔を見つめていた。
「いいえ、すごく緊張しちゃって、なんだか、もう、ドキドキしてます」
直美の顔は、ろうそくに照らせていたけど、ちょっと、本当にほほが染まっているように見えた。直美の手は俺の手をしっかり握り締めていた。

「ありがとう ございました。ステファンさん」
叔母も深々とステファン神父に頭を下げていた。
「いえ、お礼など、ご一緒にこの二人を神と共に見守りましょう」
「はぃ 神父さま」
叔母は生まれた時からの信者だった。

「さ、では、シメオンと直美さんはその席に座っていいですよ」
俺たちは1番前の長椅子に座るように言われていた。
このお祈り用の長椅子は、俺が小さい時にここでいたずらをすると、その罰として、拭き掃除をよくさせられた椅子だった。
「今日は3月29日だよ、覚えておいてね、忘れちゃだめだからね」
直美はうれしそうに俺の顔を覗き込んでいた。やっぱり、頬は、ほんのりピンクに染まっていた。
神に誓うもなにも、誓う前から、彼女を間違いなく愛していた。
ピンクに染まった愛する女の頬に ちいさくキスをしていた。

作品名:恋の掟は春の空 作家名:森脇劉生