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恋の掟は春の空

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小さなベッドのその上で


風呂から、あがると、直美は、なんか顔のお手入れをしているようだった。
「はやー ちゃんと、もっとゆっくり入りなさいねー」
「はぃはぃ。わかりました」
自分ではけっこう、ゆっくりだったのにって思っていた。

さっき 引っ張り出していた上下グレーのトレーナーにパンツ姿だった。
直美はブルーの生地に花柄の厚手のパジャマだった。
「寒くない、大丈夫?なんか上から羽織ったほうがいいよ。暖房ないし・・」
こんな綺麗なマンションなのに冷暖房の機械は各自でってスタイルらしかった。もうすぐ4月だったけれど、夜になると、そこそこ冷えていた。
「劉のなんか洋服借りてもいい・・これしか部屋からもってきてないし・・」
「あ、うん。いま、取ってくる」
どこかに カーディガンがあったはずだった。紺色の無地のカーディガンだった。
「こんなのしか ないけどいいかなぁ」
「うん。平気。借りるね。ちょっと寒いかも・・劉は平気?」
厚手のトレーナーだったので全然平気だった。

「なんか静かだから、今から、ステレオコンポ出して、ラジオでもつけようか・・」
「いらない・・・静かだね。 ほんとに劉と二人っきりって感じで、とってもいいよ。夏に劉のおにーちゃんちに泊まって以来だね。初めて劉とキスした日だね。」
半年も前だった。付き合いだして、1年も経ってからのキスだった。
「1年もかかったよ、キスするまで・・もうずーっと劉ったらキスしないのかと思ってた。あんまり直美のことを好きじゃないのかと思ったことあるもん。でも、そんなところも、劉らしくて好きよ」
「だって キスする場所ないだろうが・・」
「えー どこだってあったよぉ 帰り道でいいのに・・まったく・・。ちょっとだけ、チュでいいのに・・」
「最初の頃はさ、直美の顔見てるだけで息詰まりそうで、それどこじゃなかったもん。きちんと普通に話せるようになったのも1年ぐらいたってからだったからさ、それまでは、もうなんか、いっぱいいっぱいでさ・・」
「そんなに 好きだったんだ。おかしいー」
笑われていた。
「でも、直美も、同じ」
静かな部屋に二人の笑い声だけが響いていた。
「今、何時なの?」
「うんとね、10時50分かな」
壁掛け時計もなかったから 腕時計を見て答えていた。
「もう、寝ちゃおうかなぁ。ながい1日だったけど、楽しかったね」
確かに長い1日で、いろんな事があった1日だった。
昨日までは、付き合っていても別々の屋根の下で暮らしていたのに、今日からは部屋は違っても同じマンションなのだから。それだけでも劇的な日だった。
おまけに、今日はこの小さなベッドで一緒に寝ることになるのだから。
「もう、ベッドに入っちゃおうっと・・」
カーディガンを脱いでそれを俺に渡すと布団のなかにもぐりこんでいた。
「劉も もう寝ようよ。はぃ こっちね。直美が壁側だから押しつぶさないでね」
「そっちこそ、蹴落とさないでね」
言いながら、とっても狭いベッドにもぐりこんだ。ベッドも狭かったけど布団だって一人用なんだから、どうにもだった。
「わ、お布団とられちゃう」
言いながら直美は体を寄せてきた。それを受け止めて彼女の頭を左の肩に乗せて抱き寄せていた。
「劉の身体 暖かいね」
直美の身体も暖かだった。

それから、今までで、1番長い長いキスをした。
語り合う時間は終わって、見つめ合う夜がやってきていた。
「雨が降っても、風が吹いても、いつも君を抱きしめて、すべてから君を守ろうと思う」
ゆっくり ゆっくり ゆっくりと静かに言葉にした。
右手を握っていた直美の左手が「うん」って力強く答えていた。
静かな静かな、二人きりの素敵な夜だった。

作品名:恋の掟は春の空 作家名:森脇劉生