恋の掟は春の空
ダンボールの箱に囲まれて
やっとのおもいで、マンションにたどり着くと手の平にはくっきりと買い物袋の重みでできた痕が赤く付いていた。冬の夜空の帰り道はなんだか、とっても幸せと、彼女への想いで胸がいっぱいだった。
「ちょっと、部屋に寄っていくから、劉は部屋で待っててね、すぐに行くから」
「荷物も全部上でいいの?カーテンすぐにつけないとだと、直美の部屋・・」
「そっか、じゃぁ、待ってるから1回荷物劉の部屋にあげてカーテンだけ持ってきてよ」
言い終わるとエレベーターから彼女は部屋に向かっていた。
5階の部屋に荷物を全部降ろして、直美の部屋の分のカーテンを抱えて降りる事にした。インターホンを鳴らすとすぐにドアが開いて直美が顔を出して迎えてくれた。
「さ、がんばって つけちゃうね・・着替えもできないもんね、これじゃぁ」
「うん。でも周りはあんまり背の高い家はないから・・静かでいいところだよね・・ここ」
「そうだねー 木がこんなに周りに多いのってなんか 不思議だね」
マンションを囲むように大きな木が茂っていた。
「さ、袋からカーテンだしてよ、俺が掛けるから」
「うん」
言いながら直美はていねいにカーテンを袋から出していた。彼女の血液型はA型だった。
「あれー これってさ、レースのカーテンもつけるんじゃないの・・レール2個あるよぉ」
「うーん。ま、後からでいいよ・・レースのカーテンは・・とりあえずはこれで充分だもん」
「そっかぁ 俺はいいけど、直美はいるんじゃないの・・」
「でも、これから いっぱい買わなきゃいけないものありそうだから、じょじょにでいいよ。お金なくなっちゃうもん」
たしかに そうだなぁって思っていた。
「わー 思ったより綺麗、これ・・」
取り付け終わったカーテンを見て満足そうだった。
たしかに お店で見たときよりももっと綺麗に見えていた。
「さ、劉の部屋もつけちゃおうよ。ちょっと待っててね」
荷物を探しているようだった。
「なに 探してるのよ」
「うーん 着替えとパジャマ」
「え、なんで・・」
「えー うそー さっきさ 今日は劉の部屋でお泊りさせってって言ったのに・・忘れちゃったのぉ」
もちろん 忘れるはずはなかった。言われてから何回も思い出していたんだから。
「このまま、俺の部屋に来ちゃうの・・」
「だって、もう今日は片付けるのいやになっちゃったんだもん。おなかいっぱいだしさ」
たしかに 俺もそうだった。
「じゃ、いこうか・・」
「ちょっと 待ってよ・歯ブラシが見つからないんだもん・・あ、あったぁぁ。えっと着替えにパジャマに・・歯ブラシに・・ あ、タオルは借りてもいい?」
「うん。探さなきゃいけないかもだけど」
「一緒に探してあげるから 大丈夫よ」
荷物を抱えた彼女とダンボールだらけの部屋に戻ることにした。
リビングはダンボールだらけだった。
静かな部屋だった。
「なんかさTVとかないと、ちょっと落ち着かないね。不思議だねぇ」
「なんか、二人っきりって感じでちょっと 素敵だけど・・」
おもいがけない言葉だった。
「喉かわいちゃった・・お湯わかして日本茶でも飲もうか・・」
「あ、台所にさっき、やかんもマグカップは出しておいたよ」
「借りちゃうねぇ あ、お茶の葉もあるの・・あ、これかぁ。劉も飲むでしょ」
「うん。あ、ガスも昨日から開通してるからって 言ってたよ」
「うん ちゃんとついてる。お湯待ってる間にカーテン掛けちゃおう」
さっきと同じように 直美が綺麗にビニール袋からカーテンをだしてそれを受け取って、掛けてみた。
「わー これで このマンションの3階のとある部屋と5階のとある部屋に同じカーテンが・・・この 謎は・・・誰にも判らない・・なんかの題名みたいでしょ」
直美は笑ってカーテンをながめていた。
「ばっかじゃないの・・」
「あー ひどーい、バカはないんじゃないのー」
めっちゃ怒られていた。
「お湯沸いてるから・・ほら・・」
「あー もう。劉が入れなさいよー 怒ってるんだから、まったく、もう」
そう言いながらも彼女はキッチンに立ってお茶を入れていた。
「この上でいいかなぁ 」
置くところがなかったのでダンボールの上で我慢した。
広いマンションのダンボールに囲まれて、またダンボールの上にマグカップが二つだった。
「うーん なんかとっても 素敵・・」
素敵はどうかはわからなかったけど、とってもいごこちが、良かった。
こんな部屋でそれを感じるほど、静かな二人きりの部屋だった。
お互いに なにかを感じて、なにかを考えていた。