恋の掟は春の空
お腹もいっぱい 手にも腕にも
2階でカーテンがはいったカゴをブラブラさせて、他にもいろいろな物がないことに気づいていた。
「ゴミ袋とかも買わないとだね」
「それ以外もいっぱいだと思うよきっと・・どうにも急用なのは買っておこうか・・」
言われたけど、なにが急用なのかあんまり分かっていなかった。
「荷物多くなっちゃうけどいいかなぁ・・別けて持てばいいよね」
かごをもう一つ持ってきて、そのカゴに直美がいろんなものを入れていた。すぐにカゴはいっぱいになって、生活ってたいへんだなぁ・・って人事のように感じていた。両手に重いカゴが二つだった。身にしみていた。
会計を済ませて、表に出ると、もう夜になっていた。
手に荷物がいっぱいだった。
「持とうか、半分わたしも・・」
言われたけど、半分でも重さがあったので、彼女の手が痛いだろうなぁって思っていた。
「大丈夫。でも手にぎってあげられないけど、いいかな」
「もー 心配してあげてるのに・・」
すこし 怒って、すこし笑っていた。
「どこで 食べようかぁ・・わかんないしね。お店・・」
「うーん。さっき、ここに来る途中の右側にお店があったけど・・・そこにしようか。ハンバーグがおいしそうだったよ、静かそうなお店だったし・・・でも、ちょっと 高いかも・・」
そんなお店が途中にあったなんて気が付いていなかった。
「うーん。今日は引越しお祝いですから、少しぐらいなら高くてもいいんじゃない」
記念日なんだからって思った。なんて名前をつけりゃいいんだかはわからなかったけど。
「じゃ、そこにしよう。帰り道だし。いいよね。劉ちゃんと東京暮らしのスタート記念日だもんね・・今日は」
同じ事を考えてたらしかった。
「その 記念日の名前ってちょっと長いかも・・」
「えー 別に特別に考えたわけじゃないもん、そのままだもん・・」
一緒にちょっと笑っていた。
それから ちょっと歩くと彼女が言った店の前だった。
「ここでいいかなぁ・」
「うん。ここにしよう。落ち着いてていい感じそうだよ」
確かにちょっと高そうなお店だったけど、ものすごいお金を取られそうではなかった。
中に入ると奥のちょっと大きめなテーブルに案内されていた。
「お荷物お預かりしましょうか」ってお店の人が笑顔で聞いてきたけど、椅子におけそうだったので、断った。
「ハンバーグがいいなぁ・・サラダも別に一つ取って分けようね」
メニューを見ながら満足そうな顔で覗き込まれた。
「じゃ、俺はこの和風ハンバーグにするわ」
彼女はデミグラスソースが乗ったハンバーグらしかった。
注文を終えると、お店の人には聞こえないように直美が話しかけてきた。
「ねぇ、私と劉ちゃんって、他の人から見たら、なんに見えるんだろうね。カーテンこんなに抱えて、それに生活用品まで、こんなにいっぱいで・・。
ねぇ どう思う」
「うーん。たぶん 若い新婚さんには間違っても見えないと思うけど・・どうなんだろう・・不思議といえば不思議かも」
「えー、 新婚さんに間違える人って、いるってば・・絶対いるわよ・・」
ほんの少しムキになってるようだった。おかしかった。
「あ、明日の事なんだけどさ、夕方悪いんだけど、付き合って欲しいところあるんだけど・・いいかなぁ」
叔父の家に行かなきゃいけなった。
「なに、どこかに行くの」
「うーん、さっき手紙もらったんだけど・・あ、これ、叔父からなんだけど・・」
ポケットに突っ込んでたのを直美に差し出していた。
「あー、 また、くしゃくしゃにして・・ふーん。どこなの叔父さんの家って・・」
「住所は 赤堤ってとこで、ここからさっき見た世田谷線で一つ目の 松原 って駅なんだけど」
「へー 近いんだねー。お買い物してからでいいんでしょ。緊張しちゃうけど・・どうしよう・・」
「いやー 今日見た感じだから あのままだから平気よ」
「えー 奥さんもいるんでしょ。あー なんか 緊張しちゃう」
「ま、サラダでも食べなさいよ」
サラダが少し前にテーブルに運ばれていた。
「うーん、こんなときは食べて緊張ほぐそう・・」
おかしい事をたまに、いう子だった。
「わー おししいよ 食べて」
言いながら 小さなお皿に取り分けてくれていた。うーん、めっちゃ若い新婚さんにも見えるかもしらないやって少しだけ思っていた。ま、そう見えなくても間違いなく仲のいい恋人同士には見えるに決まっていた。
「じゃ、新宿で買い物の帰りに行くからよろしくね」
「はぃ かしこまりました」
頭を斜めにちょこんと下げて笑顔に戻っていた。
ちょうど そこにハンバーグがおいしそうな音と一緒にやってきた。熱い鉄板の上に、どうぞーって感じだった。
「ちょっと、途中で少し劉のもちょうだいね」
言われるような予感がしてたから、ちょっと笑えた。
「おいしいねー 劉のもおいしい?」
「うん。食べる?」
言いながらナイフで少しハンバーグを切って彼女のお皿に乗せようとすると、直美の口が、 あって開いた。少し笑ってフォークにさしたハンバーグを彼女の口に差し出した。 パク って音が聞こえそうなぐらいに ハンバーグは彼女の口の中におさまっていった。
それから 彼女は明日買わなきゃいけなそうな電気製品を一つ一つ思い浮かべては 話しかけてきた。
「忘れそうだから、あとで、どっかに書かないとだね・・」
確かにそうだった。
「電気製品もだけど、ほかに必要なものも家に帰ったら、全部書こうね。一緒に」
大変そうだったけど、そうしないと 生活できそうになかった。
それから「ケーキも食べちゃおうか」って直美が言ったので、コーヒーと紅茶で、のんびり過ごす事にした。
「帰ろうか」って直美が言ったときにはもう8時になっていた。
お店を出て、手にまたいっぱいの買い物袋を提げて歩き出した。
「ねぇ 甘えたりするわけじゃないけど、これからは、頼っていいよね、劉に・・」
顔を覗き込んで恥ずかしそうに聞いてきた。
だまって 彼女にうなずくと 荷物いっぱいの俺の腕に腕を組んできた。歩きづらかったけど、それは とてもとてもうれしかった。
腕に伝わる想いは かけがえのない宝ものだった。