恋の掟は春の空
世田谷の陽が暮れて
「お帰りなさい。もうこの荷物で終わっちゃいますから・・」
トラックの後ろにダンボール箱を下ろしながら1番若い男性社員が汗を拭きながら話しかけてきた。
「えー もう終わっちゃいますか・・すいません。なにもしないで・・じゃこれは持って行きますから」
言いながら台車に手をかけて、マンションの入り口に向かう事にした。
「あらー。じゃぁ お部屋に行ってもいいかなぁ。303号室だっけ、私の部屋・・劉・・」
うなづくと、おかーさんと一緒に後ろを付いて、一緒のエレベーターに乗り込んできた。
「ちょっと、お部屋みてくるね。あとで劉の部屋にもいくね・・5階だよね」
「うん。たしか角部屋・・」
言い終わるとエレベーターは3階に着いて直美はうれしそうに部屋に向かっていった。
思ってたのより、高そうなマンションで相変わらずびっくりしていた。
5階に着いて部屋を探すと、ドアが開いてる部屋がそれらしかった。
「あ、こっちです。もう荷物はそれで終わりですかね」
台車の荷物を見て女の社員の人に聞かれた。
「そうみたいです。 全然手伝わなくてすいません。ごめんなさい自分の引越しなのに・・」
「いいえー 荷物思ったより少なかったから、全然電気製品なかったんですけど、大丈夫ですかー」
ちょと笑われていた。
「すぐに 明日買ってきますから。でも、今晩TVがないのはちょっと寂しいけど・・」
また 少し笑われた。
「ちょっと聞いてもいいかしら、一緒の子は彼女なんでしょ・・昨日社長が言ってたわよ・・いいわねぇ。なんか・・彼女のおかーさんにまで気に入られてるんでしょ。隠し事がないのっていいわよねー 彼女かわいいいし・・」
24歳ぐらいなんだろうか、この人って考えながら、なんて答えて言いか悩んでいた。
「あ、ごめんね 変な事言っちゃって。さ、荷物入れちゃおうね」
荷物を玄関から中に入れるとびっくりした。2部屋だったけど、考えてよりすんげー広かった。
「あのー この部屋ですかね」
「え、そうよ。FAXで見取り図送ったでしょ、前に。私が送ったから・・ここの」
この人が送っってくれたとは知らなかった。
「いやー。もらったんですけど、 あんまり良く見てなくて2部屋だなぁ・・ってのは覚えてるんですけど・・1部屋がこんなに広いとは思わなかったもんですから」
「ここって、もともと本当は3部屋なんだけど、壁取っちゃってるから・・リビング広くなってるのよね」
リビングに入って見渡したけど、本当に広かった。
「劉ー ちょっとー いるー」
直美の声が玄関から響いてきた、少しおっきな声だった。
「なにー なんか 荷物間違えてるー・・」
「ちがうのよー 部屋が大きいのよぉー あーここも広い・・」
もう横に直美は立っていた。
「うん。俺が間違えてたみたい・・間取り図のFAXが2部屋だったから6畳、6畳ぐらいかと勝手に思ってたけど・・そっちもそうなの・・」
「うん。同じ、ここと広さ・・おかーさんがびっくりしてるわよー」
「俺もビックリ中なんだってば・・」
叔父に慣れてる俺がビックリしてるんだから、そりゃ、おかーさんはもっとビックリのはずだった。当たり前だった。
一緒の部屋にいた社員3人は、その会話を聞いて笑っていた。
「社長らしいですかね、やっぱり」
1番年上の男の人に聞かれていた。
「大変じゃないですか、うちの叔父が社長だと・・・みなさん・・」
「いえ、社員にはとっても優しい人ですから・・声はちょっと大きいですけど。今日も僕ら、さっき、手渡しでお小遣いいただきましたから・・ほら」
言いながらポケットから封筒をだして見せてくれた。封筒には「引越し祝い」ってなぜか書いてあった。やっぱり笑えた。
「あ、そうそう 忘れるとこでした。これを社長がって」
差し出されたのは手紙がはいった封筒だった。
1行しか書かれてなかった。「明日の夕方 家に直美さんと遊びにいらっしゃい。女房も楽しみにしてしてるから。ではお疲れさん」
どうにも こっちの都合はおかまいなしのようだった。
あとで、直美になんて言おうかって考えていた。
それから、叔父の社員は直美の部屋に行って部屋の契約をしているらしかった。おわると、挨拶を受けて会社に戻るようだった。こっちが恐縮した。
直美の部屋は角部屋ではなかったけれど、L字の形のマンションで、その曲がったところが部屋だったので、どっちの部屋も窓が外に向いていてベランダも広くて、いい部屋だった。
半額どころか、家賃4万の3倍は楽に取れそうな部屋だった。
少し4人で話をしていると時間は4時になっていた。
まだ、暗くはなっていなかったけど、高志叔父さんと直美のおかーさんはそろそろ田舎に帰ることになった。
「劉ちゃん、じゃ 帰るから、なんかあったら連絡ちょうだいね。わがままだけど許してやってね。多めにみてあげてね 直美の事」
って小声で言われた。
「いえ、しっかりしてますから、けっこう・・」
「あー なんか言ってる・・」
直美はちょっと ふくれっつらをしていた。
「じゃ、直美ちゃんとやってね」
「はぃはぃ 大丈夫だから 気をつけて帰ってね」
マンションの下に降りて トラックと赤い車を見送った。
直美に手を握られて部屋に戻る事になった。エレベターに乗り込むと
「がんばって生活しようね。よろしくね 劉」
ってまじめな顔で直美が言ってきた。
「うん、がんばろうね」
まじめな顔で答えていた。
「ちょっと荷物を箱からだしたら、あとでそっちにいくね」
言い終わると キスをされていた。抱きしめようとしたら3階に止ったエレベーターからするりと降りて手を振られた。
「あとでねー」
また 直美を好きになりそうだった。