神待ち少女
次の時間は体育だった。体育の時間はさすがにじっと静かにしているわけにはいかないよね。今日は6組と合同でバスケだ。私はあまり目立ちたくないし体力もないから、パス回しに徹している。
6組合同だから、あの子もいるな。そう、この高校で彼女の存在を知らない者はいないだろう。
2年6組の酒井汐里。超がつく程の天然で、どっからどこまでが本気なのかわからない。多彩な才能を持っている。学年で2番目に人気があると言われている。あくまで噂だ。
これは面白いことになりそうだ。少し彼女を観察してみよう。
「バスケって何の略?バスケボール?」
そんなことを言いながら、ドリブルをしている。
「あのカゴに入れるだけでしょ」
スリーポイントエリアより前のところから投げて見事に入った。自分のチームのゴールだが。
「うち点決める係やるよ。パスよろしく」
にこやかに笑った。
5組対6組で試合をすることになり、私は汐里をマークすることにした。
「あ、七海さんだ。元気?」
手を振っている。何度か話したことがあるので、面識はある。
「今日もかわいいね。うちもウェーブかけてみようかなぁ」
彼女の髪型は、耳上の高さで上下に分け、トップと顔周りにレイヤーが入っている。彼女にはロングがよく似合うと思う。
「髪長いとお手入れが面倒だからね。いっそのことマッシュボブとかやってみようかな」
「それだと、柊と被っちゃうよ」
「あ、そっか。さすがに美桜さんとかぶっちゃ申し訳ないよね」
それはどういう意味だろう。
「てか、バスケに集中しなきゃ。負けないぞ」
そう言って、走り出した。ちょこまかと走り回っているが、あまりボールは回ってこない。私が徹底的にマークしているから。
「よし、今だ!」
ループパスをもらってすぐにゴールへ投げた。投げ方は完全に我流だが、見事に放物線を描いて、ゴールに吸い込まれた。
「よくあれで入るね」
何度見ても驚いてしまう。
「うちあのカゴに好かれてるのかも」
はぁはぁと息切れしながら言った。
笛が鳴って、交代した。
「おつかれ」
「うん、楽しかったね」
コートから出て私は座った。交代した5組のチームには、中川がいる。あいつ楽しそうな顔してるな。
「じゃ、頑張っていこう。おー」
そんなことをチームに呼びかけていた。
ゲームがスタートした途端、早速中川にボールが渡る。
「おぉー、さすが」
汗を拭きながら汐里が言った。
中川はあっという間にディフェンスを抜いて、レイアップを決めた。
「穂乃香さん運動神経いいよね。特にバスケ上手い、あれでマネージャーさんなんだよね。選手かと思ったよ」
確かに中川は運動はできるし、成績も優秀だ。プライドが高いからね。自分が目立たないと気にくわないようだ。
「おぉー、まただ。すごい!」
特にする必要ないのにレッグスルーを繰り返して、最後はリバース・レイアップで決めた。全部魅せるためのプレーだ。
「ドリブルで相手を抜くのかっこいいよね」
そんなことを汐里は私に話しかけてきた。
「確かにね。でもやりすぎじゃない?」
「まぁいいんじゃない。穂乃香さん人気者でしょ?ああいう風に目立っている人がやるから華があるんだよ、きっと」
「汐里だって十分目立ってるよ」
「またまたー、そんなわけないじゃん。うち地味なほうだよ」
わかってないとは、本物の天然だ。