神待ち少女
「なんで、私を振って、中川なの?」
一言加えてもう一度尋ねた。
「お前と別れた理由は前に言ったはず」
「『性格が合わなくて、うまくいかなそう』」
「そう、それだ」
「じゃあ、あのマネージャーとならうまくいくと」
中川は男子バスケットボール部のマネージャーである。桐山颯汰も同じバスケ部だ。彼ら2人に近づいた私を、中川は激しく嫌っているようだ。あくまで私の推測だが。
「うん」
言葉を濁すような言い方だったが、目は本気だった。はぁ、とため息をつく。なんでこんな感情的になっているんだろう。
「お前こそ、何で颯汰と?」
「特に、理由はないわ。ただ……」
私はうつむいて、目線を逸らした。正直、今となっては自分でもわからなくなっていた。なんでだろう。なんで――。
「今まであったものがなくなったから……その埋め合わせをしようと思った」
「本当に?」
「多分ね。でも、そもそも私には必要なかったの。調子に乗ってたんだわ。うん、改めて気づいた」
顔を上げて言った。
「そっか、それが本心かどうかわからないけど、あんま意地っ張りにはならないほうがいいぞ」
「何をわかったような口をきいているのかしら?」
「いや、何にも……」
「あとは?」
「それで、別れたのか」
「それは、あいつが1番わかってるはずだわ。直接聞いてみれば?」
「……そうかもしれないな、すまん」
謝るということは、ある程度察しはついているんだろう。正直、これ以上自分の口から言いたくない。
「もうこれ以上私から言うことはないわ。まぁこれからもよろしく」
どこか冷静を装おうと必死になっているのがわかった。でないと――。
「ん、ああ」
紫苑は伏し目がちで、心配そうな顔をしていた。
「こちらこそよろしくな、まぁあんま無理はするなよ」
「あんなのほうこそ」
そう言って、屋上を後にした。後ろは振り向かなかった。屋上から2人で帰るところを誰かに見られると厄介なことになりそうだしね。
急ぎ足で教室に帰る。はぁ、とまたため息をつく。いろいろと面倒なことが多いわね。1度だけ鼻をすする。まったく――。