神待ち少女
1時間目が終わった。数Bは苦手じゃないから、そんなに苦じゃなかった。
「やべ、今の時間ほとんど寝てたわ。ねぇノート見せて」
そんなことを男子が言っている――三浦琥太郎だ。
三浦はお調子者だ。特に勉強もスポーツもできるわけではないが、とにかくおしゃべりなので目立っている。私の斜め後ろの席だ。
「ねぇ、朝倉。ノート見せてくれないか?」
三浦は誰にでも話しかける。それは、社交性があるというのか、あるいは無神経というのか。
「別にいいよ。すぐに返してね」
「おお、サンキュー」
ノートを受け取って、机の上に置く。
「朝倉って実は字下手くそなんだよな。そうは見えないけど」
ノートを写しながら、三浦は言った。
「別に私が読むために書いてるんだから、私が読めればいいの」
「確かに、そう言われればそうだな。でも、ちょっとびっくりだわ」
「たいした話じゃないでしょ」
「つれないなー」
笑いながら言う。
「はい、またなんかあったら貸してね」
ノートを手渡される。
「まぁ、そんなに当てにしないことね」
「はーい」
まったく、本当に調子のいい奴だ。
「なんか、朝倉っておとなしいよな。見た感じ、うるさそうなんだけど」
「そんなの、髪が茶色だからでしょ。それ以外はごく普通の女の子よ」
「髪が茶色なのは大きいよ。イケイケな女子高生みたいな」
「私には、合わない言葉ね」
「そうかなぁ。でも俺、今年クラス一緒になって嬉しいよ」
「それは、よかったわね」
「なんだよその言い方ー。褒めてるんだぞ」
うるさい奴だが、悪い奴じゃないんだよね。
三浦と絡んでいるうちに、もう2時間目が始まるようだ。次は、英語だ。英語も特に苦手じゃない。