神待ち少女
「じゃ、放課後ね!」
「うん、またね」
そう言って、2人は教室の前で別れた。柊は4組で、私は5組だ。
教室の扉を開ける。扉を開けた音に気づいて、何人かの視線がこちらに向いたのを感じた。何にも言葉を発せず、私は自分の席に向かう。
席に向かう途中で、目が合った。
中川穂乃香。私と目が合うと、一瞬目を逸らしたが、視線を元に戻して、私に歩み寄ってきた。
「おはよう、朝倉」
「おはよう、中川」
実にわざとらしい言い方だ。また一緒のクラスになるとは、本当についてない。
「今日もかわいいのね」
「それはどうも。あなたのほうがかわいいわよ」
「そんなこと、聞いてないわよ」
不敵な笑みを浮かべる。
「何か用?」
「いや、うちからは何も」
「あ、そう。私からも何もないから」
そう言って、席に向かって歩き出した。中川は怪訝な顔をしていたが、無視した。
「あなたがその態度なら、それはそれでいいわ」
背中で中川がそう言い放ったのを聞いた……プライドの高い奴だ。
「おはよう、楓」
「あ、おはよう。七海」
席に座って、隣の席の松田楓に話しかける。
「久しぶりだね。休日はどうだった?」
「だいたい部活だったかなぁ。そろそろ発表会があるからね。七海は?」
「いろいろあったよ。うん、いろいろ」
「そっか、それはよかったね」
楓は必要以上に詮索してこない。というより、自分から話すことがほとんどなく、聞き役になることが多い。私のクラスでの数少ない話し相手だ。吹奏楽部に所属していて、トロンボーンを吹いている。髪はロングで、どちらかというと、地味な感じの子だ。
「あ、そろそろ1時間目が始めるね」
「そうだね、用意しなきゃ」
退屈な授業が始まる。早く放課後にならないかな。