神待ち少女
「高校生活はどうだい?」
急に話題が変わった。趣味の話から、日常の話になった。私を気に入ったという彼は、根掘り葉掘り聞いてくる。
「普通ですよ」
特に言うことが思いつかなかった。
「普通、かぁ。君みたいにかわいい子は、さぞモテるだろう?」
「否定はしないです。確かにモテてました。昔の話ですけど…」
「昔。今は?」
「今は特に何もないです。興味もなくなりました」
「うんうん、原因はなんだろう、失恋でもしたのかな?」
「失恋はしました。言葉の上での話かもしれませんが、確かにしました。でもそんなにショックだったというわけでもないです」
そうだ、私、失恋してた。だいぶ昔のことのように思い出す。まぁそんなに大げさな話じゃないけど。
「失恋して以降、少なくとも何か考え方が変わったということなのかな?」
「一理あるかもしれないという程度ですね。元々冷めてたのもありますけど、失恋したときは、『あぁ、結局こんなもんか』という風に感じましたね」
「そうか…恋に恋してたのかな?」
「どうでしょう。恋に恋してたというより、『故意に恋してた』という感じですかね」
「なるほど、それで?」
「それで…」
記憶が頭の中に浮かび上がる。あいつの顔が見えてきて、途端に白ける。あぁ、かったるい。
「もう…やめましょう。面白くないです…」
「あ、ごめんね。なんか無神経にいろいろ聞いちゃって…」
まったくだ…。なんなんだいったい…。
「…あの、もうそろそろ終わりにしませんか?寝たいです」
「あっ…あぁそうだね…」
彼はどこか残念そうに言った。
「まだ何か?」
「ちょっと…いいかな」
「なんですか?」
「キス…してくれないか」
「は?」
私は一瞬耳を疑った。まさかと思ったが…やっぱり…!
「…やっぱり…体なんですね…!」
私は立ち上がって、身構えた。
「ん、どうも唇にそそられてね。大丈夫軽くだよ。嫌かい?」
「全然理解できない…!」
わけがわからなかった。キスをしたら、絶対その先もあるはず。
「まぁ普通の反応だね。抵抗があるのはわかるよ。でも僕は、嫌々な感じより、自然な感じでして欲しいんだ…できればね」
何、この男…変態か?さっきまでの言動はまだまともだったのに…。ここまで落ち着いて言うなんて、だいぶおかしな人だわ。
「僕は何度も言っているが、君のことが気に入ったんだ。でも、そんなに激しいことはしたくはない。ただ、君の姿がとても魅力的だから、キスしたいと思っただけだよ」
なんかとても変態チックなことを、綺麗な言葉で言って、正当化しているように聞こえた。でも…無理やり感やいやらしさがあまり感じられない。
少し沈黙が流れた。彼は私をじっと見つめている。その目は、何ともいえない目だった。まっさらな目とでもいうような、いや違う。今まで見たことのない目で、表現できない。
「本当に…何もしませんか?」
ホテルに連れ込まれた時点で覚悟はしていた。気持ちは当然進むわけがないが、被害は最小限にしたほうがいい。
「本当だよ、そんなに恥ずかしいなら目ずっとつぶってるよ」
この男、本当に読めない。
「お好きにどうぞ」
「そうかい、じゃあ、どうぞ」