神待ち少女
「そういえば、さっきから七海、あっちのほうに目がいってるよね」
美香さんが指差すほうには、男性の集団があった。女性無料のオフ会だから、見渡す限り女性のほうが多い。なので、男性がいると少し目立つ。
「そんなことないですよ、どちらかというと美香さんのほうではないかと」
「バレたか」
舌を出して、にやけた。
「でもさ、あそこの人かっこよくない?ねぇ」
そう言って、明美さんをつつく。
「たしかに、イケてるかも!」
明美さんものってきた。酒が入ってテンションが上がってきているようだ。
「座るとこミスったね。ここからじゃ話しかけにくいわ。席替えしてくれないかなぁ」
二人が視線を送る男性を見てみた。
うん、たしかにかっこいい。顔立ちは整っていて、髪は短め。年齢は30歳ぐらいかな。洒落た服を身にまとい、腕には高級そうな時計をしている。男は年をとるとかっこよくなるというが、このことをいっているのかもしれない。私の学校にこんな風になる男子はいるのかな?
「あっ!立ち上がった!トイレかな?あたしも行こ」
美香さんも立ち上がって、彼について行った。
「まったく、美香ったら」
「まぁいいんじゃないんですか?食べてるだけじゃ面白くないですし」
そう言いつつ、私は肉を口に運び続けた。とにかく腹を満たしたい。
「そうだけど、美香は軽すぎ」
「そうみたいですね」
二人で笑った。まだ若いからできることだよね。
しばらくすると、二人一緒に帰ってきた。どうやらうまく話しかけられたようだ。しかも結構二人くっついてる。すごいな、美香さん。
「ちょっと、失礼ー」
美香さんがそう言うと、二人は私の隣に座ってきた。少し狭かったが、強引に押し込まれた。彼の体が私にあたる。
「こちら、大川弘樹さん。車のディーラーさんなんだって!」
「どうぞよろしく」
彼は明美さんの手をとって握手をした。
「こちらこそ!車のディーラーなんて、すごいですね!」
「いえ、そんなことないですよ」
照れたような顔を浮かべ、頭を掻いた。その顔には、余裕がにじみ出ていた。大人の男の風格というものかな。そんな感じ。
「あたしと明美は同じ店で働いてるんですよ」
「なるほど、あなたがたのような店員がいるなら、その店に足を運びたくなりますね」
「本当ですか?ならぜひお店に来てください!」
なんか3人で盛り上がってる。私は口を動かすのを控え、箸を積極的に動かした。ただ静かに肉を口に運ぶ私は、さぞ滑稽に見えただろう。
その後もしばらく私を除く三人で会話は盛り上がり、その間に私はウーロンハイを1,2杯飲んだ。
「そういえば、七海は2次会行くの?」
ふと、声をかけられた。なんかすごく久しぶりに話しかけられた気分だ。
「あたしはまだ飲み足りないからいこうかなぁ」
「私は…」
どうしようか。このまま帰ってもいい。腹は膨れたし、お酒もそれなりに飲んだ。
「せっかくだし、行かない?」
そう誘ってきたのは、明美さんだ。
「そうだねぇ、まだまだ夜はこれからだし。行こうよ」
美香さんが後押ししてきた。とても楽しそうな目をしている。
まぁ、いいか。断れそうもないし、抜けずらい雰囲気だ。無料だし、家に帰ってもすることないし。わざわざ来たんだし、このまま終わるのも味気ないといえば味気ない。
「じゃ、じゃあ行きます」
若干迷っていた心境とは裏腹に、口でははっきりと言った。
「OK!あ、そろそろ移動するみたい。あたしたちも行きますか。弘樹さんも行くの?」
「んー、どうしようかな。明日も仕事があるんだけど」
「大丈夫よ。まだまだ楽しみましょうよ!」
「ははっ、しょうがないなぁ」
わざと一度じらしたのだろう。こんなやりとりを幾度となく経験してきているようだ。慣れている。
「そろそろ、2次会に移りたいと思います。ここでお帰りになる方はどうぞご自由に」
副管理人が声をあげた。何人かは先に席を立ち、去っていった。
「では、今ここに残っている方は2次会に行くということでいいですね?では行きましょう」
そう言って、みんな彼について行って外に出た。