神待ち少女
店に向かって歩き出す。
彼女は私をじっと見て、口を開いた。
「そういえばさっきナンパされてたよね?」
見られてたのか。大声あげてたし、恥ずかしい……。
「見られてしまいましたか。まぁちゃちゃっと追い返しましたよ」
「歓楽街ではよくあることよね。かわいい子はみんな声をかけられる」
彼女の言葉が少し砕けているのに気づく。おそらく見た目から年下と思ったのだろう。
「私に声をかけるなんて、ずいぶんと物好きな人ですよね。迷惑です」
「そう?まぁ迷惑だけど、ちょっと嬉しかったりしない?だって、若いうちだけよ、ちやほやされるのって」
「特に嬉しくないです。少なくても、そんなに男性を渇望したことはないですね」
「なるほど。そういう答え方もあるかもね。ん〜」
何度も頷いている。共感する部分があったのだろうか。歩きながら話しながら、店に入り、店員に個室に案内された。
「どれくらい人が来るのかしら?あなた初めて?」
「はい、初めてです。少し緊張してます」
「私は2回目よ。このオフ会は無料だし、安全でいいわ」
「安全とは?」
「思いっきりお持ち帰り目当ての男が来るオフ会とかもあるのよ。それに比べれば、ゆっくり楽しんでお酒が飲めるわ」
「そうなんですか。オフ会っていろいろあるんですね」
「ん、あぁ、このオフ会が初めてってことじゃなくて、オフ会そのものの参加が初めてなんだ?」
「はいそうです。まったくの初めてです」
「そっかぁ、じゃああなたは正解だよ。楽しめるといいね」
階段を上って、部屋にたどり着いた。襖の部屋のようだ。
「ここね。じゃあ入りましょ」
襖を開いた。中を見渡す。
中ではすでにオフ会が始まっているみたいだった。何人かの人々がビールのジョッキで乾杯をしていた。見た感じ、若干女性の方が多い。結構盛り上がっているようだ。みんな積極的に話している。
襖を開けて真っ先にこっちを向いた男が一人こっちに寄ってきた。彼は?
「どうもこんばんは。仕事帰りですかい?おつかれさまです」
「おつかれさまです。今日も結構人が集まってるみたいね」
「まぁまぁだよ。もっと夜になってからでないとね。2次会から来る人もいるし」
「そう。私今日はどうしようかな」
「そちらの方は見ない顔だね。一緒に来たってことは知り合いかい?」
私の方に目が向く。彼は大柄で、ヤンキースのTシャツを着ている。
「いや、さっき外で知り合ったの」
「そうかい。まぁ立ち話もなんだし、座ってよ」
襖に近いところのテーブルには人はあまり座っていなくて、奥の方のテーブルにみんな座っている。
「私はいいでしょ?向こうに行ってるわ」
そういって彼女は奥の方のテーブルに行った。そして、そこの人たちに『はじめましてー』と言って、話の輪の中に入っていた。
「えっと、君このオフ会に参加するの初めてだよね?名前聞いていいかな?」
「あ、はい…」
こういうときは本名を出していいのかな?まぁ嘘ついてもしょうがないけど。
「朝倉七海です。朝夕の朝に倉庫の倉で、朝倉。七つの海で、七海です」
ばかみたいに丁寧に名前を言った。だいぶ年上の人と話すと思うと、ちゃんと言葉を選ぶのだけど、逆に変になってしまった。
「はい、七海さんね。僕の名前は、いとうけん。よろしく!」
「どうも。もしかして、あなたがエキセントリック少年ですか?」
「ん、そうだよ。それで呼ぶ人はあまりいないね」
この人が副管理人か。管理人はいないのだろうか。まぁ周りを見る限り、この人がこの場を仕切っていることは間違いない。
「じゃ、もういいよ。飲み物は、僕に言ってくれれば持って行くから」
「は、はい。わかりました」
言われるがままに、私は奥のテーブルに向かった。どんな感じでいけばいいんだろう。いきなりテンション高めでいったら、多分引かれると思う。おしとやかに、軽く会釈して、すっといければいいけど…。