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神待ち少女

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 あまりにあっさりと別れてきてしまったことを歩きながら後悔していた。知らない人に話しかけられるのは過去に何度かあったが、あんなに話したのは初めてかもしれない。いい人でよかった。本当によかった。まさかこんな出会いがあるとは。オフ会も無事に終わってくれればいいが。
 約束の、新宿駅東口歌舞伎町一番街の下のセブンイレブンの脇に向かう。夜になって、新宿は夜の町になっていた。スーツを着たかっこいい男が道行く女に話しかけている。看板にドレスを着た女が映っている店が立ち並ぶ。集団で歩いている男女もいる。路地裏では怪しいネオンの光が目立つ。明るいところと暗いところの差が激しい。ここが、新宿歌舞伎町。
 私は、新宿駅東口歌舞伎町一番街の下のセブンイレブンの脇に着いた。本当にここで待ち合わせなのだろうか。誰もここで待っている人がいない。みんな通り過ぎていく。私は脇でひっそりとしゃがんで人が来るのを待った。
 9時になる10分前になっても人は来なかった。大抵の人はセブンイレブンのATMを利用しに来る人だけだった。私はずっとイヤホンを耳に入れたまま待った。待っている間に、6曲終わっていた。
「ねぇねぇ、そこの子。かあいいね」
 顔を上げてみる。ずいぶんと舌ったらずな喋り方だ。帽子を逆にかぶり、ネルシャツを腰に巻いている。もしやこの人が、エキセントリック少年か蒋軍か?
「これからさ、合コンに行くんだけど一緒に来ない?かっこいい人揃ってるよ」
 ナンパかよ。こんな歌舞伎町の入り口にいるからだよ。まったく。
「あの、私用事があるんでいいです」
「まぁまぁそんなつれないこと言わないでよ。ちょっとでいいからさ。楽しめるよ」
 そう言うと私の手をつかんできた。あぁ、やってらんないわ。すかさず手を振り払った。
「うるさいなぁ!私は行きたくないの!私をナンパするなんて、あんた身の程がわかってないね。あんたみたいなぱっとしない奴は好みじゃないわっ」
「わ、わかったよ…。そうヒステリックをおこすなよ、もう行くから…」
 まったく…。ナンパは嫌だね。ナンパしようとする気はあるようだが、強く断ればあっさりと退いちゃう。弱弱しいね。まぁどうであれ、いきなり話しかけられてついていくなんて、普通しない。
「あの、ちょっといいですか?」
 え、また?ちょっと今日はかわいくきめてきたからって…。
「何ですか?」
「もしかして、オフ会の待ち合わせですか?女性無料の」
 はっとなって、顔を見た。女性だった。OLかな?仕事の帰りに来たという感じだ。
「は、はいそうです。ここで待ち合わせですよね?ずっと待ってるのに誰も来なくて」
「やはりそうでしたか。私も今着いたばかりです。もしかしたら現地集合なのかもしれないですね」
「え、そうなんですか?私はここに来るように言われたんですが…」
「そもそもオフ会の開始が9時からだから、そうかなぁと思って。管理人に聞いてみますね」
 彼女は携帯を取り出して、メールを送っている。こうなる前に私も確認しておけばよかった。少し沈黙が続いた。
 ふと、彼女の携帯が鳴った。
「返信が来ました。あそこの焼肉屋にいるようです」
 彼女は指を指した。なんだ、ここにいたのか。ずっと待ってて損したわ。
「ありがとうございます!あなたに言われなかったら、ここでずっと待っているところでした」
「それはよかった。じゃあ行きましょうか」

作品名:神待ち少女 作家名:ちゅん