神待ち少女
「ははっ、何を言っているんだ。お前はもう終わりだよ。お前なんかをかくまったところで俺になんの得があると言うんだ?」
「ちょ、ちょっと!そんなのってあんまりじゃない!」
確かにそう答えるとは思った。こんな人間が助けてくれるわけがない。彼女の嫌な予感がどんどん的中し始めた。
「なら、そもそも監視カメラを仕掛けるなんて外道よ!プライバシーの侵害で訴えてやる!」
「よくもそんなことが言えたものだ。ここまで育つことができだだけでも幸せだと思えよ。また他のところに養子にでも行けばいいだろ?」
「なんてひどいことを!養子養子って…。あたしだって本当の家族の元で育ちたかったのに…!」
「本当の家族、ねぇ。売られてきた身でよく言ったものだ」
「え、売られた?」
彼女は瞬きを繰り返した。売られてきた?頭の中でその言葉が何回も駆け巡った。
「もう知ってもいい頃だろう。お前は母親に売られたんだよ、金目的で」
「嘘よ!あたしは信じない!たとえそういうことがあっても認めない!ママがそんな理由であたしを捨てるわけがない!」
彼女は怒鳴り散らした。信じたくない。彼女は頭でそう考えた。だが頭の片隅で、そうなんじゃないかと思っていた自分がいたことを思い出していた。
「まさか、本当なの…?ねぇってば!」
「本当さ。俺はお前の母親を知っている。名前は後藤慎子だよな?彼女はうちの会社の受付をしていた。それが縁で知り合った。豊田正憲ともその縁で知り合っている。豊田正憲は彼女を気に入っていたようだ。同時に娘のお前のことも」
「養子に入る前からお父様はあたしのことを知っていたの?」
養子に入る前に父に会った記憶は彼女にはなかった。
「正直豊田正憲は彼女と結婚したかったみたいだ。彼がずいぶんと娘を欲しがっていたことを知っているだろう。しかしそれは閨閥関係の破綻につながる。だから結婚は諦めざるを得なかった。その話を彼は彼女にした。そうすると彼女はこう言ったそうだ」
一呼吸置いて、強調するように言った。
「『私の子かわいいけど、いる?そのかわり高くつくよ』と」
それを聞いた彼女は肩を落としてうなだれた。パンドラの箱を開いてしまったような衝撃だ。悲しいというより哀しい。涙がまったくでなかった。
「それでいくら請求してきたと思う?1000万だ。ひどい女だよな。そんな金額を払ってまでお前を買った豊田正憲もどうかしているが。それにしても1000万とはなぁ。何も言えなかったな」
1000万なんて金額はどうでもよかった。金のために売られたということが何よりもショックだった。
「その後彼女は会社から去ってどこかへ消えた。まぁ当然か」
彼女は呆然としていた。こちらの声が届かないじゃないかと思うくらい沈んでいた。
「さぁ、そろそろお終いにしようか。とにかく、お前はこの家から出て行くことになる。わかったな?2日以内には荷物をまとめて出て行くんだな。あ、豊田正憲に相談しても無駄だぞ。どっちにしてもこれを持っている俺の方が有利に決まっている」
そう言うと彼は、床に落ちていたカメラを拾い上げ、映像を再生した。雫の喘ぎ声が静かな室内に響き渡る。
「さぁでていけ」
彼に手を引っ張られ無理やり立たされた彼女は、ふらふらと部屋から出て行った。