神待ち少女
「金をもらったことで決意したね。強く生きよう、ってね。こんなことじゃめげないぞ、いつか自立してやるぞ。そう思ってたんだけどね…」
まだ何かあるんだな。虐待を苦に家出して、神待ち少女になったわけではないようだし。まだかわいそうなことがあるのかと思うと耳をそむけたくなるが、ちゃんと聞いてあげなきゃいけないと思った。彼女のために。
「あれは、中3の頃だったかな。いつものように父をイかしたあと、叔父さんに呼ばれたの。母の弟の」
うすうす感づいてはいたようだ。家族の何人かにそれがバレていることを。呼ばれたとき、彼女はその話のことだとすぐわかった。もしかしたら助けてくれるかもしれない、そういう風に思っていたが。
「雫。正憲さんといけないことをしているようだな。最近雫の様子が変だと思っていたんだ。そして正憲さんの様子も変だった。家に帰ってくるとすぐに、雫と部屋に入っていた。どうも怪しいと思って、少し手荒ではあったが、正憲さんの部屋にカメラを仕掛けて置いたんだ。まさか、こんなことをしていたとは…」
そういうと、叔父さんはカメラで撮った映像を彼女に見せてきた。彼の顔を見て彼女は思った。このひとは助けてくれない。これをエサにして脅す気だと。落胆した。
「ずいぶんと淫らじゃないか。いやらしい液を口いっぱいにほおばって、顔面びしゃびしゃにした挙句、あそこもこんなに濡れている。清楚な子だと思っていたが。まさかねぇ…」
「もうやめて!」
彼女はカメラをはじき落とし、耳を塞いで叫んだ。せっかく耐えてきたのにこんな仕打ちはひどすぎる…。下唇を千切れそうなくらい強くかんだ。悔しくて涙が溢れた。床に粒が落ちていく。
「まったく…。ヒステリックをおこすんじゃない!だが雫よ、この映像を晒されたくないだろう」
「あ、あたしにどうしろと?」
「まぁ聞けよ。この映像はお前にとって都合が悪いが、同時に正憲さんにとっても都合が悪い。この意味がわかるか?この映像を晒せば、正憲さんは終わりだ。そしてこの一家も」
「そんなことをして叔父さんはいいの?」
「俺は豊田の姓じゃない。本田駿だ。豊田家がどうなろうと関係ない。むしろ好都合だ。お前は養子だから知らなかったのかもしれないが、豊田家と本田家は閨閥関係でつながっている。豊田正憲と俺の姉である本田佳子は、政略結婚だったんだ」
「なるほど。ある程度察しはついたわ。叔父さんは結婚に反対だったわけね?」
「そのとおりさ。最初は取引先として関係を強めていた。あの頃はまだよかった。だが豊田家が事業に失敗すると、その救済措置として両家の会社の合併が一方的に提案された。その足掛かりのひとつが結婚だったわけだ。本田家の総帥で俺の父の本田哲夫は、俺たちの将来を考えた上での決断だったと言っていた。しかし俺は断固反対だった。豊田家の会社と手を組むことで、俺の地位が揺らぐのではないかと恐れたからだ。実際合併後会社の主導権は、実質豊田正憲が握り、俺はその管理下に置かれた」
感情が昂ぶっているのがわかった。だんだん声が大きくなっていた。
「ずいぶんとプライドが高いのね」
「ふん、俺は誰かの下につくなんてまっぴらなんだよ。あの時は仕方なく引いたが、いずれは一発くらわしてやろうと思って、今まで臥薪嘗胆の日々を送ってきたんだ」
「そう。じゃああたしがなんと言おうが、それを使ってお父様を落としいれようとするわけね。ならせめて、その後のあたしの生活は確保してよ」
それを聞いた彼は急に笑い出した。嘲り笑うかのように。