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【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ-

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 母親が喧しく病院に行けというので、仕方なく近くの内科へ行く。とはいえ十分に回復していたので、医者から特に何かを言われる事は無かった。診断に来た理由を聞かれたときは、断食しまして、と言っておいた。医者は
「あぁ、ダイエット?」
 と勝手に解釈してくれた。で、水も三日間飲んでなくて、と付け足すと
「君バカでしょ。」
 と言われた。成績的にはバカです、はい。
「そんなサングラスしちゃって、君バカでしょ。」
 何故二回言った。

 月曜の内科はとても混んでおり、診断まで中々の時間がかかった。珍しいのか、待合室で待っていた他の患者樣方はサングラス姿の高校生男子をちらちら見ていた気がするが、気のせいだろう。
 まぁ高校生男子かどうかはわからないだろうけど。制服じゃないし。ちなみに本日は学校に行く気はない。調べられる事はさっさと調べる事にし、また調べたい事にはかなりの時間が必要なので、学校に行く暇がないと考え、サボる事にした。今から行ったって遅刻確定だし。携帯を出して時間を確認する。うん、今十二時、既に昼休み。
 完全に放置しておいた携帯電話を再び起動したのは日曜日、図書館から帰って来た後だった。正直忘れてた。一〇〇を超える着信とメールがあり、殆どが大輔のものだった。あと谷川が少し。親のも少し。心配してくれるのはうれしいが、僕としては女の子に心配して欲しかった。
 と、ちょうど大輔から電話がかかって来た。
「よう、大輔。」
「おおお出た!『よう』じゃねーよ馬鹿!何で今まで電話に出なかったんだよ!」
 五日ぶりの友人の声は、何だか震えているような気がした。あと本日のバカ三つ目いただきました。
「ああ、僕は馬鹿だよ。電池を充電し忘れてたから、着信があったかどうかわからなかったんだ。」
「マジで馬鹿だなお前!心配させんなよてめー。」
「心配?珍しいな、お前が他人の事を心配するなんて。」
「そりゃお前、いいんちょがあんな事になっちまった同じ日から三日も休みやがるから、何か起きたんじゃねーかと思うだろ!」
 大輔は途中でトーンを落としてそう言った。あんな事——烏山高校が誇る秀才、染崎明日香を失った、どころか染崎さんが殺人姫だったと知った学校はどうなってしまったのだろうか。花笠さんの時の様に、またあらぬ噂をたてられているのかもしれない。しかし伝説の殺人姫に憧れていた染崎さんに噂というのはちょうどいいのかもしれない。噂は噂を呼び、何れ広い範囲に流布する。もはやこの世には存在しない殺人姫は、噂によって都市伝説になるであろう。
「別に何も無いよ。ただ…ちょっと交通事故に遭ってさ、今入院してるんだ。」
「は?入院?マジかよ先公はそんな事言ってなかったぜ?」
「言ってないしね。だから大輔が心配する必要は無いよ。」
「うるせーな人を心配させておいて何だその態度は!俺以外にも雪人を心配してた奴は居るからそいつらに謝っておけ!」
「謝れって…」
 ガサゴソと音が鳴り、違う人間が電話に出た。
「よう青原、五日ぶり。」
「谷川か、うん、五日ぶり。」
 次に出たのは親友その二だった。
「青原、入院だって?」
「ん?ああ、交通事故、だっけ?でさ。」
「ふぅん」
 谷川は深く事情を聞いてこない。何となく察しはついているようだ。空気が読めるんだか読めないんだかよく判らない男だ。
「あっそう、じゃあ秋本と一緒に見舞いの計画でも立てておくよ。」
「余計な事はするなよ。」
 入院してないんだから見舞い出来るはずが無いしね。
「もうちょい休むのか?」
「ん…さあ、どうだろうな、直ぐ戻れるかもしれないし、まだまだかも知れないよ。」
「あっそう、まぁ入院生活は退屈だろうけど、巧く暇を潰せよ。あぁ、変わるから、ちょっと待ってろ。」
 なんだ、また大輔に変わるのか?
「…もしもし」
 しかし予想とは違い、変わった相手は五条さんだった。
「五条さん?」
「そう。」
「そう、か。五日ぶり。」
「そうね、五日ぶり。」
「…………」
「…………」
 相変わらず会話が二分と保たねぇー。
「…あー、五条さん、聞こえてる?」
「…聞こえてる。」
「良かった。えーっとね、五条さんさ、」
 昨日、十二年前の新聞に載っていた名前、五条雅弘、彼の名は、まだ言うべきじゃないだろう。まだ、後に…
「悩んでる事とか、あったらさ、僕や谷川や、何なら大輔にでもいい、相談した方が良いよ。」
 僕が何故か五条さんを心配する電話になってしまった。でも僕は、彼女がある悩みを持っているはずなのだと、そう思っている。悩みでなくとも、重要な問題があるはずだ。
「考えて、おく。」
「今、悩んでる事、ない?」
 何かの勧誘みたいな喋り方になってしまった。
「…ある、かも。」
「ならさ、今度会った時に、僕に相談してよ。一人で悩んでも、仕方ないからさ、人に話してみるのも良いかもしれないよ、って、僕が言えるような台詞じゃないんだけどさ。」
 先週は、一人で勝手に突っ走り、協力を仰いだ谷川には何も言わず、一人で塞ぎ込んでいた。本当に僕が言えるような台詞じゃない。でもさ、だから僕も、
「僕にも悩み事が出来たら、聞いてくれる?」
 全部が終わったら、一人で悩むのは止めよう。
「…わかった。」
「ありがとう。」
 その後、携帯は大輔の手に戻り、なんのかんのと五月蝿かったが最後まで聞いてやった。昼休みが終わる頃に通話は終了した。
 さて、僕も昼食でエネルギーを補充しておかなければならない。午後からの仕事は、どれだけ時間がかかるか判らない代物だ。途中でへばって遭難したりしたら敵わない。まぁその時には、一人で悩まずに誰かに助けてもらうさ。