【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ-
しかし彼女は話しながら、鞄を開け淡々と準備を開始していた。
「んー、そうね、赤坂町の獣の話、かな。」
赤坂町の、獣?
「なに、それ。」
「別に知らなくていいよ。ただの伝説だよ。『殺人姫』の。」
殺人姫の、伝、説?
「な、なんだ、殺人姫って、染崎さん自身がそう名乗ったわけじゃないのか?」
「私がそう名乗ったよ。『殺人姫』っていう名称のオリジナルは私。『殺人姫』の伝説っていうのはだから、私がそう勝手に名付けただけだよ。」
鞄から手袋を出し、手にはめ込みながら彼女はそう言った。
「名付けたって、伝説?な、何それ。歴史資料室?赤坂町に昔そんな殺人者が居たってこと?」
「昔っていうか、大昔だよ。江戸までさかのぼるみたい。あ、歴史資料室を探しても無駄だよ。私が読んだ後で燃やしちゃったから。」
「なん…でっ…」
「私ね、その殺人姫に凄い憧れちゃったの。」
彼女は更にレインコートのようなものを装着しながら喋り続けた。
「ああ、こういう人がいたんだって、病み付きになっちゃって。男の子がゴジラとかに夢中になるのと、同じだと思うな。」
殺人姫に憧れる、そんなことが、動機としてあっていいのか。
「そ、そんな馬鹿な、君が今までしてきた殺人はじゃあ、男にとって憧れの対象と同じ行為、ごっこ遊びだったって言うのか?」
「ん、何か語弊がある様に思うけど、まあニュアンス的には合ってるんじゃないかなぁ。正確には伝説と同じことをしてるわけじゃないよ。私は伝説とは違う方法で、『殺人姫』になりたいんだ。伝説と並び立つような、遺体を飾る、現代の『殺人姫』に。」
なんてことだ、彼女はつまり、女子がセーラームーンに憧れて、それと同等の存在になりたいという願望と同じだって言うのか。それがこの、若木町連続殺人事件の正体だって言うのか。
狂っている、こんなの、常人に理解出来るはずがない。僕だって、理解はしたけど、納得出来ない、出来るはずがない。
動機なんて、考えるだけ無駄。
誰かがそんなことを言っていた。全くその通りだった。
他人との価値観の溝は海よりも深く、埋められるようなものではなかった。
「さて、そろそろいいかなっと。急がないと警察さんが来ちゃうからね。」
まずい、彼女が準備を終えた。彼女は透明なレインコートに透明なビニール手袋、マスクに帽子と完璧な解体体制に入っている。何れの装備も、とんでもない返り血がついている。まずい、ころ、ころさ、れる。
「い、嫌だ、死にたくない。」
「青原くん、さっき私、狙った人は基本的に必ず殺すって言ったよね。青原くんも例外じゃないよっ。花笠さんは十年来の友達だから特別だったけど、青原くんは駄目、まだ三年からの二ヶ月程度の付き合いじゃあ、残念ながら助けられません。」
「い、嫌だ、助けて、僕はまだ、」
やることが、やらなきゃいけないことが。
まだ死ねない、やることがある、死ねない、でも死ぬ。
「私、青原くんのこと、好きだったんだけどなぁ。だからせめて、ギリギリまでは生かせてあげるからさ、生きたまま、とりあえず解体してあげるよっ。」
い、いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
「お休み、青原くん。」
メスが眼球に伸びる。
いやだ、死にたくない、死にたくない、死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
僕が死ぬくらいなら、
お前が死ね
作品名:【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ- 作家名:疲れた