【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ-
一瞬、ほんの一瞬だが、五条さんが笑っていた、ように見えた。くっそ、滅茶苦茶可愛いなーしかも五条さんに名前を呼ばれたの初めてじゃなかろうか。あまり会話をしない彼女だから、自分の名前を呼ばれたことが無かったのかもなぁ。まぁ名前と言っても名字の方だけど。
「それで、どうなの?」
「どうなのって…」
何が?
「セキュリティ」
ああそれね…口から出任せだったから、確認も何もしちゃいないけど。誤魔化し気味に窓に目をやる。
「ん…大丈夫じゃない…かな…窓閉まってたし、二階なら窓から侵入する人は他の部屋から見えるだろうし。」
赤の他人との関係を嫌う日本人とはいえ、壁をよじ登っている人間を見たら流石に通報をするだろう。まぁこの部屋には盗むようなものなんてないように思うけど。って、泥棒の問題じゃなくて殺人姫の問題か…まぁどっちにしても怪しいやつが簡単に入り込めないような環境ではあるに違いない。口から出任せではあったが、言ってみるとそれなりに心配してしまう。が、なるほど、一人暮らしだから危ない、と言うより、一人暮らしだからこそ、そういうことには気を使えるのかもしれない。誰かと一緒に住んでいると、それが逆に理由のない安心感に繋がってしまう。僕が心配するまでもなく、五条さんは自分の身を十分に守っているのだろう。
ずずず、と再び紅茶をすする音。紅茶って音出して飲んじゃいけないんだっけ…。相も変わらず話題がない。用があるのが僕の方なので、僕の用事が終わればまぁ、話題がなくなるのは当たり前なんだけど。しかし大して調査出来なかったなぁ。冷蔵庫とシンク周りしか調べられなかった。返り血を考えるとクローゼットが調べられれば良いんだけど…まぁ服を隠すのにクローゼットっていうのも、あまりに芸がないと言うか、それはないようにも思えるけど、木を隠すには森とも言うしなぁ。当然調べられる訳がないんだけどさ。別に下着を見つけたいとかそんなことはアリマセン。断じて。マジで。
ん、何だかお腹が減ってきたな…気がついたらもう六時頃か。早くね?若木町に着いたのが三時過ぎで五条宅に着いたのが三時三五分頃だったかな…そんで五条さんが着替えてその間に物色して、終わったのが四時過ぎ。紅茶を入れるのになんか時間かかってた気がする。紅茶すんごい濃かったし。それで四時半。僕のしどろもどろの良い訳タイムで五時前ってところかな…夕食には早い時間だが、ほら育ち盛りだから、間食を入れないとお腹も鳴ってしまうのですよ。
「何か、食べていく?」
「うん?」
はい?食べるって、夕食ですか?
「そう」
「イエス」
女子の手料理をお断りするやつは男子じゃねえ。
作品名:【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ- 作家名:疲れた