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【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ-

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 花笠さんの家は僕の家よりも学校に近い。自転車の後部に花笠さんを載せて、五分も走らせれば直に彼女の家が見えた。瓦屋根のちょっと古めかしい感じの見た目だ。
 花笠さんを降ろして、これからどうしようか考えていると、彼女は僕に、せっかくだから家に入ったらどうだと誘った。
 親は、と聞こうとしたが止めた。彼女の両親は離婚して久しく、彼女の父親が男手一つで彼女を育てたのだ。平日の昼に親父さんがいるとは思えない。
 普通、女子の家に上がらせてもらうというイベントは、緊張とか興奮とかをするものなのだろうが、僕の想像が、推理が、そんな気分にさせなかった。
 この家の一人娘がガラガラと音を立てて引き戸を開ける。玄関を開いた先には廊下と、二階へ続く階段が見える。
「二階に、私の部屋があるんだ。」
 花笠さんはそう言って階段を上り始めた。僕は、付いて行くしかなかった。どすどすと、カーペットの感覚を靴下越しで足の裏に感じながら階段を上り、同時に僕は彼女の部屋というものを想像していた。意外にも人形とかぬいぐるみが置いてあるのかな、とか、昔所属していたグループの戦利品なんかが飾ってあるのかな、とか、野球チームのポスターとか応援グッズがあるかもしれない、彼女は野球が好きだし、とか、そんなことも一瞬考えた。最悪の推理を、頭からかき消したかったからだ。
 しかしその想像は、今眼の前にあるふすまを開ければ、無意味なものになってしまう。だからこんなふすまは、開けたくなかった。
「何が、あると思う?」
 彼女はそう聞いてきた。
 僕は、どう答えればいいのだろうか。

 想像した通りの部屋か。
 推理した通りの部屋か。

「…僕が言った事が当たったら?」
 質問に質問で、返す。
「…当たっても、なにもないよ。」
 彼女は、泣きそうな笑顔で答えた。
 魂は、赤く、赤く、どうしようもなく赤かった。

「…赤く、染まったものが、ある。」
 彼女の魂のように、赤く、染まってしまったものが。
 彼女は、ふ、と息を一息吐いて、ふすまを開けた。
 女の子らしい部屋とは言えなかった。男勝りな花笠さんらしいといえば、らしいのかもしれない。左手にシーツがしわくちゃになっているベッドが見え、左手にはクローゼットと思わしき扉とその奥に本が大して入っていない本棚が見える。眼の前には小さい机があった。床には色んなものが散乱していた。

 カーテンレールに白いブラウスが掛けられていた。
 返り血のついた、ブラウスだった。

 その下には、彼女の愛刀も置いてあった。
 血に染まり、凹みに凹んでいる、金属バットが。

 余りにも、余りにも非日常なものが、彼女の部屋にあるというのに、僕は大した驚きを感じる事は無かった。余りにも、予想通りだったから。この非日常を、予測出来ていた。しかし…
「アオハラはさ、わかってたんだろ。昨日の殺人が、あたしがやったって事をさ。」
 自嘲気味に笑いながら、彼女は言った。
「なんとなく、そう思っただけだよ。」
 昨日の遺体が打撲死体で、彼女がバットを忘れたなら、誰だってちょっとは思いつくはずだ。それに加え、僕にはこの「認色の眼」があった。ただそれだけだ。
「なんで、僕を、」
 連れて来たのか。
「なんで、かな。一人で、怯えるのが、嫌になったのかもな。」
 自分がもし、人を殺してしまったら、そんなことを考える。
 罪の意識に苛まれる。人を殺してしまった、罪悪感に耐えられない。誰かに言う事も出来ない。自分が人を殺してしまったと教えて、軽蔑されるのが、避けられるのが怖い。
 でも、誰かに言いたい。軽蔑しないのなら、罪を明かしたい。誰かと、この恐怖を共有して、少しでもそれを和らげたい。
「アオハラは、知ってたんだろ。」
 知らない。見るまでは、そんなこと、知れる訳が無いのだ。
「罪を共有しようとか、そう言う事を考えてたわけじゃないよ。アオハラがもう知ってたなら、私は隠したって意味無いからさ。寧ろ、隠せば隠す程、逃げれば逃げる程、罪は重くなっていくだろ。アオハラも、私がやったことがわかってて、来てくれたんだろ。もう、この罪を隠すつもりは無いよ。」

 違う、解ってなどいない。証拠なんてない、余りにも希薄な憶測があっただけだ。

「自首するよ、私。アオハラの知り合いの警察の人に連絡を付けて、ここに来てもらえば、終わりだ。その為に、来てくれたんだろ?」

 違う、そんな理由でここに来たわけじゃない。
 僕は、僕は、