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【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ-

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 保健の先生はグラマラスで体のラインをわざと強調するような、扇情的な格好をした美人なのだが、生憎、というか運良く、保健室にはいなかった。昼休みに会議のようなものがあるのかもしれない。彼女目的で仮病をしたり、体育でわざと怪我をしたりする男子生徒は数しれず、大輔なんかも時々やっていた。僕は、まぁ僕のことはどうでもいい。寧ろ居ない方が、都合がいい。
 花笠さんはまだ少し震えていた。風邪、ではないだろうが、一応ベッドに横になるように促した。彼女は大人しくベッドを背にした。僕も隣のベッドに座り込んだ。白いシーツに、赤い魂が善く映えていた。
 赤い色と一口に言っても、染崎さん赤と五条さんの赤が違うように、二人と花笠さんの赤色は、やはり若干違う。

 花笠さんは、元の色、橙に近めの朱色。
 染崎さんは、花笠さんよりももっと赤い緋色。
 五条さんは、純粋な赤色、真紅。

 赤い女性達と言っても、全く同じ赤じゃない。他の魂の色と同じく、全く同じ色はあり得ないのだ。人が違えば、色も違う。似ている人がいても、それは所詮似ているだけで、同じではない。魂もそう。似ていても、全く同じような色はあり得ない。
 赤い色は非常に稀であるが、そう言った点では他の色と違いは無い。

 横になった花笠さんのボタンを盗み見た。ボタンが外れている様子は無い。つまり、今朝ヒロさんが持って来たボタンは、彼女の物ではない…と断定出来るわけじゃない。
 もし、犯行現場にボタンを落としてしまったことに気付いたなら、態々ボタンの外れた制服を学校に着ていくとは思えない。
 彼女が、昨夜の事件の犯人である証拠は何一つ無い。
 しかし今、僕は花笠さんのことをこうして保健室にまで連れ出している。何か誤解を受けそうなシチュエーションではあるが、彼女は事実具合が悪そうだったので、何も問題は無い。
 僕の方は、具合が悪い、と言えば悪いのかもしれないが、明確にどんな風邪を引いたとか、そういう理由でここに来たのではない。保健室に連れ出したのは、彼女と話がしたかったからで、話というのはやましい類いのものではない。

 じゃあどういう話なのかというと、それは僕にもわからない。
 ただ、兎に角、怯えているような彼女の雰囲気がおかしかったからなのか、彼女が犯人なのかと問いつめることなのか。
 何も考えずに、ただ話がしたくて、僕は誰よりも早く彼女を連れて出た。しかし、話す内容を何にも考えていなかった。
 何も考えていなかったので、従って保健室内は人が二人も居るというのに無人のように静かで、しかし何かを話さないと昼休みは直ぐに終わってしまうので、何かを言わないといけないと思い、僕は思いついたことを口に出そうとしたが、

「アオハラ、ありがとな。」
 彼女の方から話し掛けて来た。
「あ、いや。」
 何を思いついたのか忘れてしまい、話し掛けるならもっと早くに話し掛けてくれればいいのに、と自分勝手なことを考えていた。
「ま、まぁちょうど一番近かったし、僕もあんまり調子よくないからついでに、って、はは。」
 どこか言い訳じみていた。何か言い訳する必要がある行為をしたとは思えない。
 何か、何かに罪悪感を感じているのか、僕は。それは何だ。
 花笠さんは、そうか、とだけ言って顔を横に向けた。

 再び訪れる沈黙。窓の外では男子生徒達が愉快にサッカーをしていた。

「僕が休んでいる間にさ、何かあった?」
 耐えきれず、発言した。

「休んでるったって、土曜日だけだろ?何にも無い…あー、アキモトがタニガワと一緒に、アオハラん家に行って、お見舞い兼冷やかしをやろうとか、言ってたかな、結局やらなかったらしいけどな。」
「いや、そうじゃなくてさ。」
「あん?」
「花笠さんに、何かあったのかな、って、思ったり、して。」

 花笠さんはそこで一度口を閉ざした。
 何かを、言い淀んでいるように見えた。

「あ、いや、何も無かったんなら、まぁいいんだけどさ、はは。」
 適当な言葉を吐いた。何も無いのならそれでいい。僕の杞憂で済む。
 だが、あの赤い魂は、何も無いわけが無いことを僕に示している。絶対に何かが会った筈なのだ。彼女の魂を、変貌させるような、何かが。
 しかし僕は、そんな根拠を否定したいのか、そんなことはあり得ないと思いたいのか、口から出る言葉は本心とは真逆で、へらへらふざけたことを言う自分の口が憎くなった。
 それとも、彼女の事を、疑っている自分自身に、嫌悪を感じているのか。

「…アオハラさ。」
「へ?」
 花笠さんが急に喋ったので、びっくりして間抜けな返事をしてしまった。
「どうしてそう思った?」
「どうしてそう思った…って」
 言われても、理由なんて話せるわけが無い。この眼は異能の眼で、他人に話して理解出来るようなことじゃない。眼以外にも、そう思う理由が無いわけではないが、それは今言うべきなのか?わからない。
 ていうか質問に質問で返すのは、どうかと思うのだが。
「ん…」
「アオハラってさ、なんつーか、私たちのことを見透してるっていうのかな。隠し事を出来ないっていうか、悩んでるのを一発で見抜いちまうっていうか、そういうとこあるだろ。さっきの教室ではさ、私も露骨だったかもしれないけど、普通の奴は多分、寒気があるのかとかその程度しか聞かないと思うんだよ。でもさ、アオハラは風邪をひいたのか?じゃなくて、『何かあったのか』って聞いたんだよ。それも、誰にも聞かれないように、こうやって自分から保健室に連れて来てさ。アオハラはもう、全部知ってるんじゃないかと思ったよ。」
「全部は、知らないよ。ただ、人よりも、人が悩んでいることに敏感なだけで、何で悩んでいるとか、その解決方法までは、僕にはわからない。」
 僕が知るのは色の傾向から来る性格や精神状態だけだ。悩んでいることがわかるだけで、悩みを解消することは、僕には出来ない。だとすると、僕にはカウンセラーなんて、無理なのかもしれない。
 そして僕は、彼女の悩みを解消したいという理由で、こうして保健室に連れて来たわけじゃない。
 彼女はつらつらと、話し始めた。
「私はさ、小学生の頃はすんげー荒れててさ。親が離婚したことが原因だったと思う。とんでもない悪ガキでさ、グループにも属して相当悪いことやってたよ。盗みをしたり、物壊したり、気に入らない奴をぶっ飛ばしたりさ。学校になんて行かないし、教師の言うことなんて聞かない、親父の言うこともうんざりだった。最悪なガキだったよ。で、ある時さ、一番やっちゃいけないことをしようとしちまったんだ。」
 十分、やっちゃいけない事をしている気はするが、
「一番、やっちゃいけない事って…?」
「麻薬。」
「ま…」
「ていうか、覚醒剤、かな。ウチのグループはそういうの禁止だったんだけどさ、他のグループをシメた時に偶然手に入って、そいつを、見つからないように、懐に忍ばせておいたんだ。こいつを使えば、全部の嫌な事から、抜け出せるんじゃないかって、思ってさ。馬鹿だよな。でも、踏みとどまったんだ。あいつのお陰で。」
 あいつとは、誰なのか。