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【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ-

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「しかし昨日の事件はなんか変だったね。」
 今日の谷川は本当に余計なことしか喋らない。
「事件って、殺人姫のか?」
「そう。遺体がどういう状況か知ってる?」
「どうって、ニュース見てねーからわからんね。」
「まぁ秋本はそう言うと思ったよ。花笠さんは知ってる?」

「いや」

 彼女の赤い色の魂が一瞬だけ黒ずんだ。

「知らないな。」

 なにかうわずった声で、彼女は返答した。

 いくら赤い色が希少でも、こういう多少の変化がないわけではない。
 一瞬変わった色。うわずった声。これが何を意味するのか。

「ふーん、そう。青原は?」
 こいつは自分で知ってるくせに、何故態々全員から聞きたがるのか。
「…全身打撲だろ。」
「うん、青原はニュースを見てたみたいだね。そうなんだよね、全身打撲。今まで常人じゃ思いつきもしないような凄惨な遺体が見つかってたってのに、今回ばかりは殺害方法も遺体の状態も、不謹慎だけどさ、すっごい普通なんだよね。」
 言われなくてもそんなことはわかっている。
「今まで刃物とか杭とか鋭利な凶器ばかりだと思われてたのに、昨日になって急に鈍器って、なんか凄い違和感を感じるんだよね。今まで凄い、何かを象徴しているかのような死体造りが、昨日に限っては本当に適当な…」
 谷川はそこで話すのを止めた。がたがたがたと、机が揺れている音を耳にしたからだろう。僕も聞いている。
 正確には机ではなく、揺れていたのは椅子だった。もっと正確に言えば、花笠さんの椅子が揺れていた。否、花笠さんが揺らしていた。
 否、未だ違う、揺れていたのは花笠さん本人だった。左腕を右脇腹に、右腕を左脇腹に添え、腕を交差させた状態で前屈みになりながら揺れていた。否、震えていた。
「お、おいおい、マジで具合悪いんじゃねえか?あんま強がんなよ。」
「いや、ちょっとさ、クーラー効き過ぎじゃないか、ここ」
「んなわけねーだろ。全然寒くねえぞ。」
 寧ろ暑いくらいだ。そう言っている花笠さんも大量の汗をかいている。
 あの汗は、冷や汗か––
「悪い嘘、いやでも大丈夫だから」
「ほ、保健室に連れて行くよ。」
 誰かが言う前に、僕が言った。
 さっさと弁当箱を片付け、彼女の席まで回り、強引に肩を貸した。
 彼女は止めろと言ったが無視した。
「は?なんで雪人が行くんだよ、保健係に頼めば良いだろ。」
「僕も具合が悪いから、ついでだよ。」
 大輔が何かを何かを言う前にさっさと教室を出た。花笠さんは抵抗するそぶりは見せたが、本心では本当に保健室に行きたかったのか、足取りは速いものだった。