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【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ-

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 遅刻ギリギリもいいところで学校に着いた。
「青原くん!遅いですよっ!」
 聞き覚えのある声だった。
 校門前で生徒の身だしなみチェックをしていた染崎さんだった。僕の顔を見るなり顔色が悪いだの、保健室に行った方がいいだのと言われた。更に気分が悪くなったら、言われなくても行くつもりだ。染崎さんの緋色の魂は何時も通りだった。ふらふらとした足取りで駐輪所から下駄箱へ、下駄箱から教室へ向かった。鐘は未だ鳴っていない。

「なんだぁ雪人ぉ、今日はやけに遅いじゃねーか。未だ風邪気味か?」
 実に五月蝿いこの声は秋本大輔のものだった。
「まぁね、気分は優れないよ。」
 返答だけして、大輔の返事は聞かずに席に着こうと歩いた。教室の前のドアから入り、一番奥の窓際の僕の席へ。歩いている途中に、教室に最も早く来ている五条五月のボタンを見る。
 烏山高校の女子生徒用夏服はセーラー服には珍しくボタンがついている。前開き式のセーラー服とでも言おうか、襟の下にボタンが三つ程付いている丸い金属製のものがそれだ。自己主張激しく烏山高校の頭文字たる、今となっては余計なことをしてくれたとしか思えない、「K」の字があしらわれている。
 五条五月の制服は、ボタンが欠けていることはなかった。
「おはよう。」
 五条さんの方から挨拶することは稀だ。っていうか五条さんの方から挨拶することなぞ、未だかつてなかった。原因は、僕が制服のボタンを凝視していたからに違いない。
 胸を見ていると思われたかな?いやいや、五条さんには見る程の胸はないからさ、視線の方向では被るところはあるけども。
「うん、おはよう、五条さん。」
 遅れて返事をした。
 五条さんはいつもと変わりない。ボタンも彼女のものとは違うようだし、彼女が殺人姫である、などという僕の疑いは杞憂で終わりそうだ。全く要らぬ心配だった。大体朝から考えているように、三日前の犯行は彼女には不可能なわけで、つまりそれは殺人姫じゃないということじゃないか。僕の弁護通りだ。全く通学中は無駄な思考に耽っていた。お陰で酔うところだったな。

 ならば、

 証拠品のボタンは、
 一体誰の物なのか。

 この時点では、そんなことは考えてなかった。否、考えようとしなかったのか。


 教室には五条さんも、大輔も谷川もいる。いつもの教室、いつもの日常だ。
 大丈夫、この教室の日常はまだ、壊されていない。
 染崎さんが教室に戻って来て数十秒後にホームルームの開始を告げるチャイムが鳴り、数秒後に担任がやって来た。
「お前ら、席に着け。さっさと出席をとるぞー。青は」
 担任が僕の名字を言いかけた時に、教室のドアがガラリと開いた。

 入って来たのは花笠カオリだった。

「セーフ!ギリギリセーフ!いやー間に合ったね完全にセーフだった!完璧すぎて完全無欠な程のセーフだった!な、先生!」
「な、じゃねえよ、もうとっくにチャイムは鳴ってるよ。まぁギリギリ出欠確認が始まっていなかった、と言えなくもないから、今日はおまけにしといてやる。しといてやるからさっさと席に着け。」
「いぇーマジ先生太っ腹だ!文字通り!。」
「うるせぇなさっさと席に着け。始めるぞー青原ー。青原ー。」

………………………何だあれは。

「青原、おい青原。青原雪人!欠席にするぞ!」

 そこまで言われて、ようやく自分の名前が呼ばれていることに気付いた。
「え、あ、はい。」
「おい未だ風邪気分か?具合が悪いならさっさと保健室へいっとけよ。」
「はい…。」
 クラスの皆がどっと笑っているような気がした。今となっては覚えていない。
 その時の僕は、担任の出席を確認する声も、クラスメイトの笑い声も、碌に耳に入ってこなかった。

 大きな衝撃の前には、どんな音も脳は認識してくれなかった。
 僕が認色していたのは、彼女の色だけだった。

 橙色の魂だった彼女、花笠カオリ。
 彼女の魂の色は、真っ赤に染まっていた。