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【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ-

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VERMILLION


 最悪の週末だった。事件との遭遇の日が金曜日で、土曜日を病欠と言うことで授業をサボった。土曜と日曜の丸二日、僕はふさぎ込んで部屋から出ようとしなかった。出ようとしなかったが、事情聴取と言うのがあるので、僕の抵抗も虚しく、警察に駆り出されることとなった。警察に言うことなんて無いので、はっきり言ってしまえば事情聴取なんて無駄もいいところだったが。

『何を言っている青原雪人』

 僕に話を聞くぐらいなら、その時間を捜査に割り当てた方が万倍もいい。

『お前は警察に言っていないことがあるだろう』

 一介の高校生に捜査の協力が出来ると思ったら、大間違いだ。

『何故話さなかった?何故隠した?』

 初日に話せることは話したのに、その後も何度も聴取を受けさせられても、正直、

『何故お前は五条五月のことを』

 話さなかったのか。
 携帯電話を隙間に落としたから入ったって、嘘もいいとこだ。即席で考えた証言にしては上出来な気がしないでもないが、よくよく考えてみるとかなり苦しい気がする。というか嘘くさい。事実、嘘なわけだが。
 五条さんのことを何故言わなかったかって?さて、僕は隙間に入ったスカートは見たが、五条さん本人は見ていない。否、白い布のようなものを目の端に捉えただけであって、それがスカートかどうかすら疑わしいのが正直なところだ。大体僕は五条さんに会っていない。遠目で、五条さんを見ただけだ。
 否、五条さんかどうかも怪しい。

『また嘘を』

 あれだけ離れていて、いつもの制服姿でないのだ、

『今度は自分にも嘘を吐くのか?』

 背格好が似ているだけで勝手に五条さんだと決めつけるのはちょっといただけな

『アレが彼女自身であることは、お前の眼が、知っているだろう?』

 …そうだ。他人になら見間違うこともあるだろうが、僕の認色の眼は色を見間違うことはない。あの赤い魂は間違いなく、見慣れた、前の席の、五条五月の魂そのものだった。自分が自分に嘘はつけても、僕の眼は自分に嘘を吐かなかった。吐かないどころか、最悪の事実を眼の前に突きつけるのだった。
 …馬鹿言え、あれは五条さんだった。それはいい、それは認めてもいい。でもな、五条さんは犯人ではない。あそこに、あの時分に居たのが五条五月であったとして、僕が眼の端で捉えただけの白い布が、五条さんのワンピースであることは証明出来ないし、よしんばそれが彼女自身だったとして、
 どうやってあの短時間で犯行が可能なのだ?
 あり得ない、あの隙間に入ったのが彼女だったとして、僕が同じ隙間に入った時点でのラグは二分も、否一分有るか無いかだった。たかだか一分程度で、あのふざけた殺害現場をどうやって作り上げることが出来るというのだ。
 どの位の時間を要するのか、そりゃあ僕にはわからない。だけどもたったの一分ぽっちで、首を切り取って、内蔵を引きずり出し、腸を…
 そこまで思い出して再び吐き気がした。三日前から設置してある洗面器を手にとった。
 …彼女が犯人ではないにしたって、それなら警察に言わない必要はない。犯人でないなら、彼女に何かが及ぶ心配はない。僕がやっているのは、悪く言ってしまえば(悪くにしか言えないが)捜査の攪乱だ。
 言う必要がないかどうかなんて、本来ならば僕が決めるようなことじゃない。否、知っていることは包み隠さず話すべきなんだ、本来は。何故、何故自分は公務の妨害と言われても差し支えのない、あんな証言をしたのだろうか。
 五条さんに、こんなふざけた事件に関わって欲しくないからなのか。

 それとも、
 よしんば、彼女があの隙間を通ったとして、何故、彼女は、殺害現場を見て、通報をしなかったのか。

 僕は、

 彼女が、

 殺人姫である、と思っているからなのか。
 その後、朝食をとる気にはなれず、登校までの時間を持て余していたところに我が家にやって来た、ヒロさんこと柏木弘人刑事が持って来た証拠品によって、僕の気分は更に落ち込むこととなった。