【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ-
放課後のことだった。
「雪人ぅ、ゲーセン行こうぜ!」
ゲーセンとはゲームセンターの略である、ことは説明するまでもなかったか。
「…こんな時期によく行こうと思うな、大輔は。」
都心から外れたプチ田舎の赤坂町にゲームセンターなどという娯楽施設は存在しない。パチンコだってない。ゲームセンターで遊ぶには若木町にまで足を運ぶ必要がある。若木町は今、連続殺人事件で以下略だ。
「だから夜までに帰れれば大丈夫なんだって!」
それは無根拠だと昨日言ったような気がするが。そんなにゲームセンターに行きたいのか。
「日々の受験勉強の癒しが必要だと思うだろ?ストレスを解消するにはゲームをするのがスカっと爽快で適しているのさ!」
まずお前は勉強をしていないし受験生でもないし、大体僕か谷川に負けまくってストレス解消どころか毎度苛ついているだろう。
「細かいことはいいんだよ!遊びたい時に遊ぶんだよ!もう高校生活一年もないんだからな!」
元気いっぱいだな。僕はそんなに元気にはなれないよ。
「谷川も行くんだろ?」
「そうだね、今日をリベンジマッチに決められちゃったからね。」
そうやって毎度リベンジマッチの日を設定してゲームセンターに何度も行くわけだ。負けまくっているのに大輔の財布は大丈夫なのだろうか。多分大丈夫じゃないのだろう。交通費もかかるしね。
「あなた達、若木町に行くの?」
聞いてきたのは生徒会副会長の染崎さんだ。
「いいんちょは若木町に住んでんだっけ?どう、一緒に行く?」
染崎さんは丁寧に断った。やはり放課後には見回りがあるらしい。あまり遅くならないほうが良いよ。危ない人がうろついている可能性があるからね。
「私は大丈夫よ。君たちも、あまり遅くまで遊んでは駄目ですよっ!」
遊びも必要だけど、学生の本分はあくまで勉強なんだからっ、と付け加えて染崎さんは廊下へと消えていった。
花笠さんは放課後のグラウンドで野球部の邪魔をしにいってるらしい。愛刀が入っているバットケースを肩に掛け制服のまま駆け足で教室を出たところは覚えている。
「で、雪人も行くんだろ?な?な?な?」
五月蝿いが行くことにした。大体毎回首根っこ掴まれて引きずられているので回答する意味はない気がする。
前の席の人物に声をかけた。
「五条さんはもう帰るの?」
「帰るわ。」
「じゃあ一緒に行こうよ。若木町まで。」
「そうね。」
若木町に行く時は、僕と大輔と谷川と五条さんのユニットを組むのが常だった。交通の便としては歩きと自転車でなければバス以外に若木町に行く方法がない。こんなへんぴな場所には電車が通っていないのだった。
「若木町までバスは幾らだっけ…。」
言って財布の中身を確認する。
「170円。」
五条さんが間髪入れずに答える。路銀は十分だった。
教室出口の前で大輔と谷川が待っている。五条さんを急かして僕もバス停に急ぐことにした。
作品名:【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ- 作家名:疲れた