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【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ-

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 四限の終了を告げるチャイムが鳴り、生徒達にとっては至福の時間である昼休みが訪れた。号令の後、生徒達は散り散りになる。友達と一緒に食べる為、隣の教室へ行く為、売店に昼食を買いに行くため、理由は様々だろう。
 そういう僕はというと、席に座ったまま一歩も動かない。何故動かないかというと理由が二つあり、一つは弁当を持っているからだ。買いに行く必要が無い。生徒達がいそいそと動いている間に僕は鞄から弁当を出して机に広げ、食事の準備をし始める。
そしてもう一つの理由は、
「雪人ぉ、今日も弁当か?っと隣の席さま失礼します。」
 と、大輔は居なくなった隣の生徒の机を僕の机に寄せた。ついでに椅子も借りている。
「青原はいつも弁当だよね。親が優しいと懐にも優しいな。」
 上手いことを言ってるのかどうか分からない谷川もやってきて近くの席から椅子だけを拝借した。昼休みになるとこうやって二人が僕の席にまでやってきて昼食を取るから、僕が動く必要は無い訳だ。
「五条さんも一緒に食べようぜ!ほら席こっち向けて!」
 大輔のチャラい誘いに五条さんは「はい」とも「うん」とも言わずに席を180度回転させ、僕の真正面に向かって座った。
「お前ら準備早すぎんぞー。」
 と一人遅れて花笠さんもやってくる。こうやって僕たちは昼休みに五人で集まって昼食を取る。大輔、谷川、花笠さんの席はバラバラなので、前後で並んでいる僕らの席まで食べにくると言う訳だ。
「で、委員長は?やっぱ今日も生徒会室?」
「否、今日は理科室なんじゃないかな。」
 花笠さんの質問に谷川が答える。染崎さんとも一緒に食事をしたいところなのだが、彼女は生徒会副会長という肩書き故に昼休みは色々と忙しいらしい。
「なんでも最近理科室か何処かで備品が盗難されてるらしくて、見回りと監視の為に理科室で昼食をとるみたいだね。」
「…生徒会ってそんなこともしなきゃいけないのか?」
 それって風紀委員かなんかの仕事なんじゃないのか?否、盗難となるともう教師の出番なのではないのだろうか?でもまぁ、教師はあくまで知識を教えるだけだから、学校内のトラブルは生徒内で解決するものなのかもしれない。
「なんか解剖用のメスとか、色々な薬品が不自然に減ってるらしいよ。」
 なんでこの男はそんなことまで知っているのだろうか。谷川は情報通であり、曰く「情報こそがこの世を形成している重要なファクターである」らしい。
「解剖って…うぇ、昼飯直前だ、もうその話はよそうぜ…。」
 大輔はこんなガタイのくせにグロテスクなものが苦手らしい。体に似合わない繊細な奴だ。
「あ。」
 っと言っている合間に花笠さんが僕の弁当からおかずの出汁巻き卵をぶんどって頬に放り込んだ。
「うん、うめぇ、青原の弁当はいつも美味いなぁ。青原のオカンは毎日いい仕事をしている。」
「…多分卵はばあさんが作ってるんじゃないかな。」
 僕の弁当は負担を減らす為にばあさんと母さんの二人で作っている。ばあさんもボケてはいるが料理の仕方は体に染み付いていて忘れないらしい。火の元等は危ないので母さんと一緒じゃないと料理自体は出来ないが。
「花笠さんも弁当なんだね。」
「おうよ、こう見えて自作だぜ。」
「ゲェっ、マジかよ。お前料理出来んのかよ…。」
 失礼極まりない大輔は罰としてパンを一個花笠さんに奪われていた。彼女の弁当も簡単ではあるものの、女子高生であることを考えれば十分及第点に達している弁当なのではないだろうか。全国の女子生徒製の弁当を比較した訳ではないのでわからないけど。ちなみに大輔と谷川は事前に購入していたパンを頬張っている。
「で、五条さんの弁当は、と…いつもどおりだな。」
 大輔は五条さんの弁当に目をやる。五条さんの弁当は大体いつもシンプルなものだった。弁当箱半分に海苔を乗せた白米、そしてもう半分にそぼろ肉。それだけである。料理の出来ない僕でも出来そうな非常に簡単な弁当を彼女は毎日食しているのだった。まぁそぼろ肉の作り方なんてわからないんだけど。
 この弁当も花笠さんと同じく、五条さん自身が毎日作っているらしい。以前大輔が本人に聞いていた。ちなみに彼女は一人暮らしらしい。それも大輔が以前聞いていた。自分で弁当を作るしかないわけだ。
 で、五条さんはこれまたいつも通り、愛用のスプーンを持って食事に臨んでいる。そぼろ肉付き海苔弁にスプーンとは風変わりな食事風景である。
「五条さん、いつもスプーンだよね。それかフォーク。」
 谷川が聞く。
 五条さんは口に含んでいる白米と肉を咀嚼し飲み込んで、一瞬の間を挟んで
「そうね。」と答えた。
「もしかして、箸が苦手なのか?」
 花笠さんも聞く。
 五条さんはもぐもぐと口内の炭水化物を味わい、胃袋に入れた後に一瞬間を置いて
「苦手ね。」と答えた。
 マイペースだ。
 大輔もろくすっぽ話を聞かずにパンを食べ、花笠さんの弁当から見えないようにオカズを奪っていた。マイペースだ。
 仲がいいのか悪いのか、よく解らない五人の昼食風景である。

「でさ、朝の話なんだけど。」
 谷川が切り出す。大体こいつは自分の持つ情報をひけらかしたがる。本人にその気はないのだろう、自分の持つ情報を共有して欲しい程度にしか考えていないのかもしれない。別に貴重な情報を共有するのは吝かではないが、それはそれ、情報の内容にも依るわけで。
「…朝の何の話だよ。」
 おかずを盗られたことが花笠さんにバレて一発鉄拳を喰らって頬がふくれあがっている大輔が苦虫を噛み潰したような表情で聞き返す。
「殺人姫の話。」
 谷川はきょとんとしている。こいつにとっては食事中に殺人事件の話をすることはどうってことないのかもしれない。以外とデリケートな大輔には食欲を無くす話かもしれないが。当然僕も、食欲を無くす程じゃないにせよ、わざわざ食事の場で話そうとも思わない話題だ。しかし谷川は話そうと思ったことを止めようとも、中断しようともしないので、今日の昼休みの話題は巷を賑わす殺人姫の話に決定したも同然なのだった。
「昨日の死体もまた酷いよね。バラバラにした挙げ句それを胴体に突き刺すんだからさ。」
「へぇ〜、突き刺すって、例えばどんな?」
 花笠さんが食いついてきた。案外平気らしい。否、見た目通り平気なのか。
「腕とか、足とか、指とか。」
 弁当のウインナーが違うものに見えてきた。まぁこれでウインナーが大輔に奪われる心配は無くなった。自分でも食べられるかどうかが問題だけど。
「そんなもん突き刺せるのか?相当怪力じゃないと無理だぜ、人間の体は見た目以上に丈夫なんだからな。」
「うんまぁ、突き刺すってのは理解の早さを重視した単語のチョイスなんじゃないかなぁ。実際は刃物で切り裂いて、そこに突っ込んであったらしいよ。」
「と、いうことはさ、犯人は刃物持ちなのか?」
 食欲が回復するまで僕も話し合いに参加することにした。話せば話す程、食欲が失せていく気もするが。
「っていうか谷川、お前どこからそんな情報手に入れているんだ?」