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【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ-

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「うん、まぁネットかな。死体を見たって書き込みがあってさ、信憑性は無いに等しいけど、刃物で切り裂いて突き刺したってのは、まぁ現実っぽいでしょ?信頼度はあると思うけど。」
 完全に無根拠であるが、谷川という男は侮れない。こいつの知的欲求は尋常じゃなく、余りアクセスしちゃいけないようなサーバーにまでアクセスして情報を調達することもしばしばである。ちなみにアクセスする方法は、余り言っちゃいけないらしい。まぁそうだろうな。アクセスしちゃいけないんだから、それなりのプロテクトがかかっているはずなのにな。
「…ん?谷川、お前さっき『昨日の死体もまた酷いよね』って言ってなかったか?もしかしてバラバラ以外にも違う方法で殺していたりするのか?」
「そうだね。バラバラも初めてじゃないけど、死体は結構バラバラだね。あ、駄洒落じゃないからね、言っておくけど。」
 誰も突っ込んでねーよ。
「そうだね、バラバラ以外だと吊るされてたり、関節が全て折られてたり、無理矢理箱に押し込められてたり、獣に喰われていたり、裸にされてたり、爪が剥がされてたり、内蔵が出てたり、それから」
「信二もういい、止めろ、十分だ、すいません止めて下さい勘弁して下さいお願いします。」
 大輔が音を上げた。音を上げてくれて助かった。そうじゃなきゃ僕が音を上げるところだった。
「なんだぁアキモトは根性ねぇなぁ。」
 花笠さんは平気そうな顔をしてそう言うが、完全に強がりだ。色で分かる。魂の色は気分が優れないときは彩度が落ちるというか、くすんだ色になる。朝は元気だった大輔の黄色も、花笠さんの橙も、くすんで時化た色になっている。逆に谷川の水色は鮮やかになっている。話したいことを話せて上機嫌になっているのだろう。
「うん、まぁ秋本がそう言うなら死体はこのくらいでいいか。」
 死体の話は止めても殺人事件の話は続けるらしい。どうせなら聞きたいことを聞いてみるか。
「一体何人が犠牲になったんだっけ。」
「十七人だったかな?もう三週間になるね、最初の犠牲者の発覚から。」
「三週間も経ってたっけか、およそ一日に一人殺されてる計算だな。」
 つまり今日の夜には犠牲者の数が十八人になっているということか。
「共通性とかはないのか?被害者に。」
 花笠さんも乗ってきた。
「ないかなぁ、十代の若者と老人が結構多いって聞いたかな。男女の割合ももまちまち、友達でも家族でもなんでもないらしいし、私怨の線は薄いね。職業にもあんまり共通性がないんだよね。一般人から政治家とか、大企業の大物も殺されてるよ。大物だけならまだしも、普通の人じゃ身代金は望めないし、大物だって誘拐とか殺人の予告状も犯行声明もない。ていうか殺しちゃったなら身代金は貰えないし。完全に無差別だね。」
 確かに、本当の意味で無差別なのだ。立場も、年齢も、収入も一切関係がない。純粋な無差別殺人。
「明日は我が身、か。」
 花笠さんが天井を仰ぎながら呟いた。無差別であるのならば、誰もが殺人姫に殺される資格を持っているも同然なのだ。
 しかし谷川はいや、心配することは無いよ。と言った。
「朝も言ったけどさ、死体は夜九時以降にしか発見されてないんだよね。だから殺人は九時よりちょっと前に行われているはずなんだ。だから夜に出歩かなければ十中八九襲われないし、それに事件が起きてるのは若木町だからね。この辺に住んでる花笠さんは大丈夫だよ。」
「しかし凄いよな…あれだけのことをして、目撃情報が一切無いんだから。」
「殺人姫はかなり上手くやってるみたいだね。」
「何考えてこんなことしてんだろうな、殺人姫は。完全に無差別でさ、毎日一人ずつ殺して、なんなんだろうな。」
 一体何が目的なんだろうな。花笠さんはそう言って首を傾げていると意外な人が口を開けた。
「目的なんて、考えるだけ無駄。」
 五条さんが初めて話に乗ってきた。
「…なんでそう思うの?」
 他の三人はあっけにとられていたので僕が返した。
「他人が何を考えているかなんて、人間には分からないのよ。」
 彼女の答えは、至ってシンプルだった。
「それは、そうだね。」
 考えと言うのは個人の脳内で発生し、個人の脳内で終了する。考えとは人間の脳の中から外に出ることは無い。考えを口に出したとしても、それは嘘かもしれないし、全てを言わず、ある部分を隠しているかもしれない。もしかすると、本当に本当のことを口に出しているのかもしれないが、それを確認する術は本人にしかない。考えを表面に出すことは出来るが、それが本心なのかどうかは誰にも分からない。読心術でも会得していない限り、他人の考えを分かることは絶対に出来ないのだ。
「サツキの言う通りだな。特に人を殺している人間の考えは、分かんねぇよな。」
「うんまぁ、他人をバラバラにしてる人の考えなんて、分かるはずもない。」
 そもそも理解出来ない。人を殺してしまう心理なんて、同じく人を殺した人にしか分からないのかもしれない。それすらも、分からない。
「あなた達、未だ食事をしているの?」
 いきなり後ろから声がかかってきたので大輔はぶるりと震えてすぐさま振り向いた。こっちの席からは誰が来たのかはすぐに分かるのだが。
 声の主は染崎さんだった。
「もう、もうすぐお昼休みも終わるのに、まだ食べているなんて、食べ始めるのが遅過ぎますよっ。」
 原因は食べ初めの時間じゃあなくって谷川のひけらかしのせいなんだが。まぁ染崎さんが知るわけも無いか。
「まったく、あなた達はちょっとは五条さんを見習ったらどうかしら。」
 五条さんの弁当箱は綺麗に空っぽになっていた。一度に食べる量も少なく、食べるペースも遅かったが、僕たちが話していた間にもくもくと箸を進めていたようだ。箸じゃなくてスプーンだけど。僕と花笠さんの弁当は六割ほどが余っており、パン昼食の谷川と大輔は互いに一つのパンを開封していないままだった。
「ほーら、五限が始まるから席に戻りなさい。二藤さんが困っているでしょう。」
二藤さんと言うのは僕の隣の席の子だ。二藤さんは、というかおおよその女子は見た目不良っぽい大輔のことを怖がっており、なかなか席のことを言いだせずにいたようだった。染崎さんにたしなめられ、僕と五條さん以外のメンバーはすごすごと自分たちの席に戻っていった。

 人の考えていることは、読心術でも会得していない限り分かるはずが無い。
 しかし僕には、読心術ではないが、この眼がある。他人の魂の色を識別出来る、認色の眼が。読心術とまではいかなくとも、他人の心情を読み取ることは出来る。僕ならあるいは、殺人姫の考えを読むことが出来るのではないのだろうか。
 殺人姫の魂が、赤い色でなければ。

 その後大輔は授業中にパンを食べようとした所を教師に見つかり大目玉を喰らった。