ちょっとした出会いから
2話
暑さが尾を引いて、いつまで続くのだろういい加減にしてくれぇ、と叫び出したくなる9月の終わり頃、ゴールデン・レトリバーの小太郎を引き連れて、日陰を探しながらとぼとぼと歩いていた。
小太郎のよく手入れされたはずの披毛には、特に耳から胸、そして尻尾には植物の・・雑草の種がびっしり絡み付いている。
口に咥えているのはテニスボール。テニスコートの柵の外の植え込みのそばでうろうろしていたかと思うと、尻尾をプロペラのようにぐるぐるまわして今にも浮き上がるのではと眺めていたら、植え込みの中へ猛然と入って行った。
この時のリードを引っ張る力というと、時には前のめりにこかされるほどである。縁石に片足をかけて、これ以上行かせてなるものかと、両手でリードを握りしめていなければならない。
それでも、腹ばいになって全身を伸ばしに伸ばして捕らえた獲物。それがテニスボール。多い時には5個も捕らえてくる。それらを一時預かりとしてポケットの中に入れておく(家に帰っても返さない。ボール遊びをする時のためにためている)。
しかし、軟球となると咥えやすくて口から出そうとしないので、そのままにさせておいた。
どうやらスポスポという噛みごたえがたまらなく気に入っているようである。おかげで全身、枯れ葉・種だらけとなる。
朝夕の散歩は犬にとって狩りの時間にあたっているのだ。運動の時間と考えておられる人々も多くいるようだが、それは本来犬が生きていく上で必要な、DNAに組み込まれている習性なのだ。朝夕に野良犬を見かけやすい所以だ。
ん、話がそれてしまった。
家に帰ったらブラシをかけないと・・やれやれ、リードの引っ張り合いだけで疲れてしまった。とにかく蒸し暑いのだ。昼間はグデッとなって寝ているだけの小太郎は、それでも外へ出ると興味をそそられるものが多いらしい。こうして路地を歩いている間も、家々の側溝や塀の基部に鼻先を押し当てている。
前方から自転車が近づいてきた。
おや、ぶつかる!
小太郎を引きよせ家の壁に手をついて自転車を通した。60歳代らしい男性だ。
「自転車は左側通行やろ」
という捨て台詞に思わず
「人は右側通行やろ」
と小さい声で言い返してしまった。
ここは生活道路なので、歩道と車道の区別などはない。
60歳代の男性って偏屈者が多いのかしらん。
作品名:ちょっとした出会いから 作家名:健忘真実