ちょっとした出会いから
9月の連休を利用して、3人で縦走コースの下見に出かけた。
1日目は、和佐又スキー場をスタート・ゴールとするコース。約1780メートルの大普賢岳を通り、昔行者たちが窟や洞を利用して修業に励んでいた所など、見所がたくさんあった。
2日目は、旧西原小学校をスタート、上北山小学校をゴールとし、高低差約1070メートル、水平距離約13.3キロメートルのルートである。
コース後半となる大栂(おおとが)山を下っていた時のこと。
午前10時ごろ・・・
私が先頭を歩き、すぐ後ろを重なるようにしてタンコが付いていた。ヨシコはいくらか遅れて歩いていたらしい。
カーブが続き、ヘアピンカーブを曲がりきった所で右手の笹やぶが揺れて、クマが私の前に突如現れた。
しばらくみつめあった。
くりくりとした愛らしい黒い目。てかてかとして輝く被毛。握手できる距離である。
「うっ、さわりたい・・・」
という衝動と戦っている時、クマはドスンという音を上げて向きを変え、山道を走り降りて行った。
身長は私より少し大きく160センチメートルぐらいに感じられた。木の実をたくさん食べた後なのだろう、どっしりとして貫禄があった。
クマに一目惚れしてしまったわけだが、ヨシコが追いついた時になって、非常にヤバイ状態だったのかな、と気付いた。
少し時間がずれていたら、誰かが怪我をしていたかもしれないのだ。
クマ目撃情報は各チームに伝わり、音を出すものを持つように、と警告が発せられたのは言うまでもない。
大会当日は、チームに1個鈴が配られた。
作品名:ちょっとした出会いから 作家名:健忘真実