ちょっとした出会いから
福山瑞穂32歳、独身。
大学を卒業して中堅総合商社に滑り込み採用され、総務部に配属された。阪急宝塚線中津駅より歩いて5分。5階建て自社ビル、1階玄関を入って正面が彼女に与えられた席である。
受付だ。
勉強には熱が入らなかった分、おしゃれに関しては夢中になっていろいろ試してみたが、会社訪問を始めてから、おばあちゃんのアドバイスで落ち着いた装いをするようになり、それが人事部の採用担当者に気に入られたようである。
瑞穂が受付に座ってから、若い男性社員の出入りが増えたようだ。
「いってらっしゃい」 「いってきます」
「おかえりなさい」 「ただいま」
わずかばかりの会話を目的に。
食事に誘われるようになった。しかしそれ以上の進展はなかった。
相手の男性は一人っ子か、兄弟がいてもたいてい長男だ。自分ひとりで12人のじじばばを見ていく図式を考えると、身震いするのだった。
一方、付き合ってきた男性たちの言葉をまとめると・・・
福山瑞穂は自分中心に世界が動いていると思っているらしい。
高価な服やバッグをねだってくる。
自分が進む方向にいる人はみんな道をあけてくれると思っている。思いどおりにならない時には泣くか怒り出す。
長く一緒にいると疲れるね。
美人だけど、わ・が・ま・ま、だ。
瑞穂の祖父母たちは、それぞれ車で10分ほどの所に住んでいる。
父方のおじいちゃん 86歳 少し認知症
父方のおばあちゃん 78歳 車いすで移動
母方のおじいちゃん 80歳 車いすで移動
母方のおばあちゃん 77歳 足が弱っているが、夫の事はヘルパーに任せてボランティア活動に精を出している。
ついでに父は58歳、母は55歳。母は親の介護のために仕事を辞めた。デイケアセンターに通ったりヘルパーのお世話になってはいるが、だれも施設に入ることは考えていないから。
瑞穂が時々母の送り迎えをしている。
作品名:ちょっとした出会いから 作家名:健忘真実