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鳥の如く

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文机を久坂の近くまで持って行く。
そして、筆を持てば手紙を書き始められる状態まで用意する。
静かに墨を磨りながら、雨が外を打つ音を近くに感じた。
「久坂さん」
準備が整うと、声をかけた。
ぐったりとまえかがみになっていた久坂が身体を起こし、顔を向ける。
「ありがとう」
礼を言い、頬をゆるめた。
いつものように微笑もうとしたらしい。
けれど、失敗した。
かなりめずらしい。
久坂は眼をそらした。
本当は起きているだけでも精一杯であることが、見ていてわかる。
それでも久坂は文机のほうを向き、筆を手に取った。
しかし。
また、咳きこんだ。
まえへ傾けた身体が咳をするたびに大きく揺れる。
その咳する声は、聞いているこちらの胸まで切り裂く。
寺島は久坂に近づいた。
これ以上は無理だ。
寝たほうがいい。
そう強く思った。
「……こんな状態で書いたら、下手な字が余計ひどくなる」
咳のおさまった久坂が顔を伏せたまま言う。
「判読不可能だって言われるかもしれない」
久坂は字を書くことが不得手だ。
大雑把な性格が影響してか、字の大小がまったくそろっていなかったり、崩しすぎていたりする。
味があっていい、とはさすがに言えない。
「寝てください」
字については触れずに、寺島はすすめた。
手紙を書くのはあきらめて寝てほしい。
久坂は筆を置いた。
だが、それから動かない。
黙ってうつむいていて、寝ようとはしない。
「久坂さん」
再度すすめようとした。
その直後。
「寺島、頼みがある」
さえぎるように久坂は言い、顔をあげた。
「代筆してほしいんだ」
その眼が食い入るようにこちらを見ている。
さっき筆を放した手は文机のうえで拳に強く握られている。
寝ている場合ではないのに……!
そんな焦りや悔しさがにじんでいる。
その想いが、寺島の胸に迫ってきた。
作品名:鳥の如く 作家名:hujio