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鳥の如く

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安静にしていたほうがいい。
眠れないとしても、なにも考えずに身を横たえていたほうがいい。
そう思う。
けれど。
「わかりました」
寺島は久坂の頼みを引き受けることにした。
あんなふうに訴えられたら、どれだけ冷静であろうとしても胸を打たれて心が動く。
久坂が抱いている危機感、そして、久坂の覚悟を、自分は知っているから、なおさらだ。
打たれた胸が痛い。
ふと、久坂が深呼吸をした。
それから身体を倒し、背中を布団に落ち着けた。
整った顔は天井に向けられている。
だが、その眼は閉じられ、さらに右手の甲がまぶたのうえに置かれた。
文章を考えているようだ。
寺島は久坂のために用意した筆を手に取り、待つ。
しばらくして、久坂の口が開かれた。
手紙の内容を言葉にする。
それを書き留めながら、寺島は驚く。
久坂の声はいつものような美しさはなく、ざらついていたり、かすれたりしている。
ときおり咳きこみ、中断することもあった。
しかし。
その内容は。
苦しそうな様子とは真逆だ。
まるで鳥のようだ。
寺島の頭に、広い青空を飛んでいる鳥の姿が浮かんだ。
自分には手の届かないはるか高み、国境のない空を、軽やかに、自由に、飛んでいる。
現実には床に伏し、苦しんでいるのに。
その思考は、発熱した重たい身体から離れ、古い決まり事からも離れ、活き活きと駆けめぐっている。
自分はそれを懸命に追いかけている。
こんなふうに代筆することで。
その内容に驚き、胸をおどらせたりしながら、書き留める。
鳥が悠然と舞う空の下で、その姿に純粋に憧れ、その姿を求めて地上を走る子供のように。
作品名:鳥の如く 作家名:hujio