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午前0時の桜吹雪

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 車両の進入を防ぐ為の柵をまたいで公園の中に入ると、桜のたもとに設けられたベンチへと腰を下ろす。鞄を脇に放り、背もたれに体を預け、夜空を仰ぐ。薄雲の切れ間から覗く月光が、緑の増えた桜の樹を淡く照らしていた。
「夜桜見物にはなかなかいい所かもしれないな」
 時期はずれの呑気な考えがよぎり、枝にかすかに残った桜の花に目をやった。ほぼ緑に移り変わった枝に、僅かに残る薄い朱色の花びらがまばらに咲いている。だが、そのちぐはぐな色合いはお世辞にも綺麗とは言いがたいものだった。
「もう、すっかり葉桜か。そういえばおとといは雨だったっけ」
 夜陰の中に降り注ぐ仄かな月の光。その中に泰然とそびえる一本の桜の樹。その見事な枝ぶりに鮮やかな花を咲き誇らせ、夜に魅せていた華はさぞ綺麗だったのだろうが、その影はいまやみるべくもなかった。周りが散っていく中で、風雨に晒されても散る事無く残った花びらは、今は無残にも、茂る緑にのまれている。
 人々を魅了したそのピンクは、もはや緑の足並みを乱すものでしかなかった。
「散り際が大切ですってか」
 苦境に負けずに頑張っても、できることと言えば醜態を晒すことしか残されていないのだろうか。
 見上げた緑とピンクの視界が、にじんでぼやけた。
 入社して2年。第一志望の企業に入れたわけではなかったが、仕事に対してモチベーションを下げたことなんて一度もなかった。
 売り手市場なんて言われてはいたが、就活が楽だった印象なんてない。全体の求人の人数に対して募集が少なかったというのは事実なのだろうが、中小を含めた全体的な景気に信用が置けるなんて状況では、とてもなかった。
 大手や人気の企業なんかは結局目も霞むような倍率だったし、一流どころは当然の如く一流大学の名前で埋め尽くされていた。どこにも行くあてがないなんてことにはならなかったのかも知れないが、そんなような奴でさえ拾ってくれる企業が10年後、20年後に残っている保障なんてどこにもない。
 だからこそ頑張った。それしかないと思った。
当たり前のように要求される残業にも根をあげなかったつもりだ。そんな様がアイツには気に食わなかったんだろうか。理不尽なものに泣かされる事なんて世の中の摂理だ。そうやってわかったつもりで居た自分が、無様で仕方が無かった
作品名:午前0時の桜吹雪 作家名:武倉悠樹