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身代わり和尚

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 村人たちは顔を見合わせました。村を流れる川は難所が沢山あります。
「まぁ、和尚さんがそう言うなら、それでもよかんべ」
「じゃあ、決まりだな」
 村人たちは縛られたゴロツキたちを船に乗せました。
「ちょっと、お経を上げさせてもらいますよ」
 そう言って、田吾作も船に乗り込みます。
 田吾作は村人たちに気づかれないように縄に切れ込みをいれ、ゴロツキたちの懐に僅かばりのお金を入れてやりました。
「さぁ、これで何とかするんだ。お前さんたちにとっても良い勉強になったろう」
 田吾作が船から降りました。すると、船はたちまち川下に流れていきました。

 田吾作はゴロツキたちの持っていた利吉のお金と反物を、利吉に返してやりました。
 利吉は泣いて喜びました。
「和尚さん、ありがとうございます。このご恩は一生忘れません。国へ帰ったら必ずや恩返しをさせていただきます」
「そんなことは結構ですよ」
 田吾作は首を横に振りました。
「それでは私の気が済みません。何なりとおっしゃって下さい」
「ははは、坊主は欲が出たらおしまいですよ。ただ一つ、利吉さんにお願いしたいことがあります」
「はい、何でしょう?」
「利吉さんが倒れた時、村人たちは誰も利吉さんを助けなかった。そんな村人たちを許しては下さらぬか?」
 田吾作が真面目な顔で利吉に尋ねました。
「はい、私は気にしておりません。私も村人の立場だったら同じことをしていたかもしれません。いや、まったくお恥ずかしい……」
 利吉が照れたように笑いました。
 それから三月後、呉服屋のあるじと利吉がお寺を尋ねました。助けてもらったお礼にと沢山の反物を持ってきたのです。
 田吾作は遠慮しましたが、あるじと利吉がどうしてもと言うので受け取ることにしました。

 五年後の秋も深まったある日、村に三人の男たちがやってきました。立派な袈裟を掛け、頭を丸めているところをみるとお坊さんのようです。
「どこかで見た顔だなぁ。誰だっけ?」
 村人たちは男たちの顔に見覚えがあるようですが、誰だか思い出せません。
 男たちは村人たちに頭を下げながら、お寺に向かいました。
「ごめんください」
 男の一人が田吾作に声を掛けました。
 田吾作は男たちの顔を見て一目で誰だかわかりました。それは何と、船で流された、あのゴロツキたちではありませんか。
作品名:身代わり和尚 作家名:栗原 峰幸