身代わり和尚
「この間は呉服屋の番頭を襲って、金と反物を巻き上げたし、ここのところツイてるぜ」
ゴロツキの一人が愉快そうに笑いました。そうです。利吉を襲った追いはぎとは、このゴロツキたちだったのです。
やがて夜になりました。ゴロツキたちはすっかり酒をたいらげてしまいました。そして何かイライラした様子です。
「それにしても、金はまだかな」
ゴロツキの一人が立ち上がろうとしました。しかし、足がよろけて立ち上がれません。
「なんだ、酔っ払っちまったのか? だらしがねぇ」
他のゴロツキも立ち上がろうとします。しかし、そのゴロツキも足がよろけてしまいます。
「ああっ、どうなってるんだ? 畜生、クソ坊主、酒の中に何か入れたな?」
ゴロツキたちが田吾作を恐ろしい形相で睨みつけます。しかし、足腰がしびれて立てないどころか、手足もしびれて刃物も振り回せません。
「ふふふ、アセビの毒だよ」
田吾作が静かに笑いました。アセビとは毒草の一種で、これを食べたり飲んだりすると、体が痺れてしまうのです。
「お前さんたち随分と気前よく飲んだもんだな。おーい! 皆の衆! 今だーっ!」
田吾作のその声に村人たちが一斉に留吉の家に入ってきました。
村人たちは田吾作とお咲きの縄を解くと、あっと言う間にゴロツキたちを縄で縛り上げました。留吉が泣きながら娘のお咲きを抱き締めました。そして、田吾作に何度も「ありがとうございます。ありがとうございます」とお礼を言って頭を下げました。
留吉の家の外ではゴロツキたちを村人たちが取り囲んでいました。
「ふてぇ野郎どもだ。このままおらたちで、なぶり殺しにしてやるべぇか?」
「いや、お役人に引き渡した方がいいだ。どっちみちお仕置きだべ」
村人たちはゴロツキたちをどうするか相談しています。ゴロツキたちは恨めしそうな顔で田吾作や村人たちを見上げています。
そこへ田吾作が口を挟みました。
「まぁまぁ、待ちなさい。見ればこの連中も若いじゃないか。まだやり直しが出来る歳だろう。誰が殺されたわけでもないし、ここは一つ見逃してやりなさい」
しかし、村人たちは猛反対です。
「こんな連中を野放しにしてたら、またいつ村が襲われるかわからねぇだ!」
そこで田吾作は一つ、村人に提案をしました。
「そうだ。縛ったまま船に乗せて川に流せばいい。助かるも、助からんもこいつらの運一つだ」