身代わり和尚
「お、お前さんたち、どうしたんだ?」
すっかり髪の毛を剃り上げ、立派なお坊さんの姿をした男たちの顔を見て、田吾作は驚きを隠せません。
「その節は大変お世話になりました。私どもはあの時、和尚さんの優しさに触れて、心を入れ替え、ある寺で修行をしてお坊さんになったのです。今はこうして、いろいろな国をまわっています。あの時のお礼がどうしても言いたくて、こうして立ち寄らせてもらいました」
「そうか、そうか。それはよいことだ。立派なお坊さんになれよ」
田吾作は優しい顔をして、今はお坊さんになった男たちを眺めました。
「ところで、和尚さんはさぞ名のあるお方なのでしょうね」
男の一人が田吾作に言いました。
田吾作は手を振って「とんでもない」と言いました。
「私はもともと百姓の出だ。字も読めなければ、お経も満足に上げられぬ。前の和尚さんが急に亡くなられたので、代わりにかつがされただけだ。こんな辺鄙な山里にすき好んで来てくれるお坊さんもいないもんでな。だから、本当は私が葬式で送った仏さんが、ちゃんと成仏できたかどうか、いつもヒヤヒヤしてるんだよ」
男たちは信じられないとでもいいたげに、顔を見合わせました。
「ならば、私たちが和尚さんに字とお経を教えて差し上げましょう」
男の一人が言いました。他の男たちも頷いています。
「おお、それはありがたい」
田吾作も嬉しそうに笑いました。
こうしてゴロツキからお坊さんになった男たちは、しばらく寺に居着いて田吾作に字とお経を教えました。
半年もすると、田吾作は一人でお経を上げられるようになり、お坊さんとしての自信もつきました。
「いや、この度は世話になりましたな」
田吾作が男たちに言いました。
「いえいえ、とんでもない。今の私たちがあるのは、みな和尚さんのお陰です。こちらこそ何とお礼を言ってよいのやら。ところで、和尚さんも私たちの寺に来て本格的に修行をされてはいかがですか? 和尚さんならきっと位の高い、立派なお坊さんになれます」
男たちが田吾作に勧めます。
「いやいや、お経が読めるようになっただけで十分。私はこの村を離れるわけには行かない。村人たちを裏切るわけにはいかないからね。それに立派な坊さんかどうかは、村人たちが決めてくれることだ。坊主は欲が出たらおしまいだからね」