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身代わり和尚

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「村の寺だよ」
 田吾作が答えます。
「ああ、そうだ。私はもう帰れない」
 男が言いました。その顔はとても悲しそうです。
「どうされたのかな? よかったら、わけをお聞かせ下さらぬか?」
 田吾作が男に尋ねました。
「はい。私は隣の国の呉服屋の番頭をしている利吉と申します。あるじから使いを頼まれ、旅に出たところを追いはぎに遭いました。そしてお金も品物の反物も盗まれてしまったのです。もう、お店にも国にも帰れません」
 村人たちもさすがに黙って聞いています。田吾作もどうしたら良いものかと考え込んでしまいました。

 その時、村人の一人が大声を張り叫びながら寺に駆け込んで来ました。
「おーい! 皆の衆! 大変だーっ!」
 村人たちも、田吾作も、利吉も一斉に振り向きます。
「何だね、騒々しい」
 田吾作が村人に話しかけます。
「和尚さん、大変だぁ。留吉の家に流れ者のゴロツキどもが居座って、娘のお咲を人質に取ってるんでさぁ。何でも金を百両用意しろってわめいてるんで」
 田吾作は集まっていた村人たちに利吉の面倒を見るように言い付けると、何やら支度をしました。
 田吾作は酒の樽を持つと留吉の家に向かいました。もちろん百両なんて大金は持っていません。
 留吉の家の前に着いた田吾作は扉を叩き、中に入れるように言いました。
「なんだ、坊主じゃねぇか。金は出来たか?」
 ゴロツキの一人が出て来て、田吾作を睨みつけて言いました。
「金は今、村の者がかき集めているよ。なぁ、中の娘さんと私と人質を交替しよう」
「いいや、それはダメだ。娘とお前じゃ値打ちが違う。でも、ちょうどいい、お前も人質だ」
 こうして田吾作も留吉の家の中に入れられてしまいました。
 中では縄で縛られた留吉の娘のお咲が震えています。
 ゴロツキは全部で三人いました。意外と皆、若そうです。歳もまだ二十歳はいっていないでしょう。
 ゴロツキの一人が田吾作に縄を掛けようとします。その時、田吾作は持っていた酒をゴロツキに勧めました。
「ほう、こいつは心掛けがいい坊主じゃねぇか。村の連中が金をかき集めている間、これでも飲んでようぜ」
 ゴロツキたちは田吾作を縄で縛り上げると、酒盛りを始めました。
「がははははは・・・・・・!」
 豪快なゴロツキたちの声が響きます。
作品名:身代わり和尚 作家名:栗原 峰幸