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さあ、行きましょう

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なんだ、ここは。
そう思い、ぼうぜんとした。
高杉の常識とはあまりにもかけ離れていて、怒りは湧いてこなかった。
戸惑いながらも、詩を作り、それを松風に提出した。
詩の出来には自信があった。
松風もその出来映えの良さを認めた。
しかし。
久坂君には遠く及びません。
そう松風は評した。
腹が立った。
なにくそ、と思った。
いつか松風のその評価をくつがえさせてやると胸に誓った。
そのために、高杉は松風の塾に通うようになった。
今から思えば、中谷にしろ松風にしろ、高杉の中の久坂への対抗心を見抜いていたのだろう。
そして、あえて久坂の名前を出し、高杉が塾に来るようにしむけたのだろう。
ふたりのほうが、高杉より、一枚も二枚もうわてだったのだ。
高杉は塾に何度も足を運ぶうちに、最初はありえないと驚いた環境に慣れた。
身分制度は守らなければならないものだとは思う。
みずからの置かれている立場はわきまえなければならない。
しかし、そうしたものにとらわれない場所にあれば、話をしておもしろい、学問ができる、学問ができなくても人柄の良さで、相手を認めることに、身分は関係ないと感じるようになった。
思い出す。
松風や他の門下生たちと塾で過ごした日々のことを。
あまりとけ込むのもどうかと思い、他の塾生たちとは少し距離を置いていた。
その少し離れたところから、皆がわいわいがやがやとにぎやかに過ごしているのを見るのが、結構、好きだった。
思い出は胸の中にたくさんある。
その思い出を大切にしたい。その思い出の中にいる者たちを守りたい。
きっと自分のガラではないだろから、そんなことは口にも顔にも出さないが、強く、そう思った。

「久坂さん」
歩いていて、ふと、寺島に名前を呼ばれた。
「少々こわい顔をしています」
そう指摘されて、ハッと我に返った。
「ああ、考え事をしていたから」
久坂そう言い訳しつつ、顔に柔和な笑みを浮かべる。
失態だ。
ささいなことではあるが、失態には違いない。
素の自分を、こんな外で出してしまうなんて。
久坂は寺島とともに江戸の町を歩いていた。
自分が江戸にきたことを歓迎してくれる宴に出席するためである。
もう日は暮れたので、あたりは暗い。
夜の江戸だ。
江戸は治安の良い町だった。
町と町の間には木戸番があって、深夜になるとその木戸は閉じられ、見張りがつく。
犯罪者が逃亡しづらい環境だ。
さらに、罪を犯した者には重い刑罰が科せられる。
八代将軍の治世には江戸の牢に囚人がひとりもいない時期があったという。
だが、それは過去のことだ。
江戸に来るたびに、治安が悪くなっているのを、久坂は感じる。
作品名:さあ、行きましょう 作家名:hujio