小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ゲップ羊と名ピアニスト

INDEX|8ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

 その様子を黒川は苦々しげに見つめていた。黒川も輪廻転生を認めたとはいえ、立場的には久保田同じ自殺者。生を嫌い死を選んだ存在だ。久保田が豊崎に反抗した気持ちはよく分かるし、それを半ば脅迫のような形で押し込めておきながらご理解もなにもないのではないか、と豊崎への嫌悪感が高まる。
 久保田を見ていた豊崎の視線が黒川を捉えた。
「私を恨むのはご自由にしていただいて構いませんけどね、そう悲観的に捉えなくてもよいと思いますよ」
 黒川はとっさに俯いたが、豊崎は嫌悪感を露わにした黒川の表情をしっかりと見たようだ。
「なにも、死を選ぶほど嫌だったあなた方の生をもう一度やり直せと言っているのではないですしね。転生後の人生で幸せを掴めるかもしれませんよ?」
 豊崎は軽口をたたくが、久保田と黒川の表情は暗い。
 やれやれという具合に首を振った豊崎は手元の書類に手を伸ばす。
「そんな顔をされましてもねぇ………、お?おや!?ちょっと黒川さん!?これ?」
「今度はなんですか?」
「いえね、輪廻転生をなさる方には転生先の大まかな情報を見ていただくことになってるんですけどね。見てくださいよ、黒川さん、これ」
 今まで見せたことのないような浮かれ具合で、豊崎が書類片手に黒川に近づく。
 豊崎の急激な態度の変化を訝しんだ黒川だったが、興味に負け書類に目を落とす。
「この越智友延さんと言うのが、黒川さんの転生後なんですけどね。見てくださいよ。ほら。一流財閥の御曹司として生まれた上に両親と共に仕事人間というわけではなくむしろ子煩悩。家庭環境は抜群ですね。しかもピアニストの母親の才能を受け継ぎ音楽的な才能にも優れ未来を有望視されるですって」
「え、これが僕ですか?」
「そうですよ!うわー、すごいなぁ。羨ましい。今までたくさんの方の輪廻転生に立ち会ってきましたけど、こんなわかりやすい勝ち組スペック初めてですよ」
 豊崎はかなり素の部分を見せて、興奮をしている。
 黒川も何度も自分の今後の姿を見返しては、豊崎の興奮に当てられたのか、まんざらでもない表情で書類に釘付けだ。
「なんだよ、黒川。おまえそんないい奴に生まれ変わるのかよ」
 二人の興奮は久保田にも移ったようだ。二人の後ろからのぞき込むようにして「越智友延」のスペックに目を通す。