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ゲップ羊と名ピアニスト

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「よかった。あってますね。いや、お二人は亡くなられてるのによかったって事もないですね。これは失礼」
 久保田と黒川ははっきり言って豊崎のペースに着いていけていなかった。豊崎の言っている事は確かに合っている。しかし、何が起こってるのかがそもそもわからないのだ。当然どうしていいかも分からない。
「本人確認と状況確認もよしっと」
 豊崎は胸に差してあったボールペンでなにやら書類に書き込みながら顔を上げる。
「さて、では、ご説明させていただきますね。ここはいわゆる死後の世界です。お二人は自殺をなされて、霊体となってここに来られたのです。先ほど橋の上に居られましたよね?あの下の川、あれ三途の川なんですよ」
 緊張感のない声で淡々となされる豊崎の説明は内容と相まって説得力は欠片もなかった。
 しかし、久保田と黒川は豊崎の言うことがおそらく事実であると直感していた。なぜか。自分たちは確かに自殺したからだ。
 久保田は自らの手に視線を移す。その右手には確かに練炭に火をつけるために擦ったマッチの感触が確かに残っている。
「本当に僕たちは死んだんですか?そしてここは本当に死後の世界だと?」
 黒川が豊崎を問いただす。
「ええ。お二人が亡くなられたことは確かです。それとここは正確には死後の世界ではなく、あの世とこの世の狭間って感じですかね。霊体の方々にはここでしかるべき手続きを取っていただいた上で、初めて「死者」となるんです。で、お二人は今わかりやすく言えば死者になる前の幽霊なんですね。でこれからしかるべき手続きの一つ、輪廻転生の手続きをさせて頂くので、必要書類を持って私が此処に来たというわけです」
「輪廻転生っ!?俺たちはこれから輪廻転生するのかっ!」
 語気を荒げて食いついたのは久保田だ。今にも胸倉に掴みかからん勢いで、豊崎を問いただす。
しかし豊崎は動じない。声のトーンを変えることなく、久保田の問いに答えた。
「えぇ。そのための手続きをこれから行います。あ、お二人にしてもらうことはさしてありませんのでご安心を。お二人が亡くなられたこと、そしてこれから輪廻転生をして頂く」
「そんなことはどうでもいい!!」
 豊崎の説明を遮り、がなる久保田。足元にあったパイプ椅子を豊崎の方へと蹴り飛ばし、今度は本当に胸倉に掴みかかろうと詰め寄る。