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ゲップ羊と名ピアニスト

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 椅子を倒しながら勢いよく立ち上がった黒川は、背広の男が入ってきた部屋のドアから、机を挟んだ部屋の反対側へと後ずさり、久保田もそれに続く。
「あぁ、ご心配なさらずとも結構ですよ。これからちゃんと説明させていただきますし、何も取って食おうって訳じゃないんですから」
 笑顔を織り交ぜながら背広は続ける。
「それに、何を身の心配することがありますか、お二人はもう死んでるんですよ?」
 毒気を抜く能天気な声で背広の男は呼びかけた。今のは冗談なのか。
「申し遅れました。ワタクシ、この度は「久保田誠二様」「黒川光彦様」お二方の死後の手続きを担当させて頂くことになりました豊崎と申します。短い間ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします」
 そう言うと、豊崎と名乗った男は礼儀正しい一礼を二人に向けて行った。
 対し、久保田黒川の二人は2度目の失声の驚きに打たれている真っ最中だ。
「ちょっ!何言ってるかわかんねぇよ!!なんだよ、その死後の手続きやらなんたらって」
 先に声を発したのは久保田だ。訳の分からぬ状況で、1時間近くも閉じ込められ、それが終わったかと思えば、自分の死後の手続き云々などを言われ、冷静を保っていられるほうが難しいだろう。久保田の叫びはもっともだった。
「混乱されるのも当然ですよね。皆さん同じような反応なされますよ」
 黒川は声を発せず動かない。豊崎へ向けていた訝る視線も今自らの足元に向けられ、なにやら考え込んでいるようだ。
 しかし豊崎はそんな二人の様子などどこ吹く風か、手に持っていた2冊のバインダーを広げ、書類に目を通し始める。
「いくつか、状況を整理させていただきます。まずご本人である事の最終確認を取らせていただきたいのですが、そちらの方が久保田誠二様、そしてそちらが黒川光彦様でお間違いないですね?」
 豊崎の問いに対し、二人の返事は沈黙。どう答えていいものやらを図りかねている様子だ。
「訂正のないことを肯定と取らせていただきますね。いや、すいませんこちらも時間がないものでして。えーっと次ですね。んー、お二人が2007年6月19日、午後22時45分頃群馬県の山中にて、練炭自殺をなさったこともお間違いないですね?」
「あぁ、だったらなんだ!」
 久保田が恐る恐る答えた。