あいつら役に立たないから。
「ふーん。んー、えっとー。俺たち人間のイメージはどこか別の世界で具現化するわけだよね」
「ええ、その通りです」
「だったら何で世界は二つしかないわけ?俺たちが持ってる実在しない存在のイメージって悪魔や神様だけじゃないぞ?龍とか、妖怪とか、ネッシーとか、UFOとか」
「仰るとおりですが、それに対しては我々は明確な答えを持ちません」
「わかんないって事?」
「そうです。わかっているのは人間がマイナスの感情、憎しみや怠惰、嫉み、嫌悪などを強く抱く時、魔界に人間の悪魔イメージを具現化した存在が現れるということです。天界についても同様で、こちらは好意や幸福、優しさなどのプラスの感情が基になっています」
「なんでそんなことわかるの?」
「我々悪魔は、おそらく神もそうだと思いますが、人間と異なり生殖を経て赤ん坊として生まれ、成長をするわけではないのです。ある日突然、今現在の体と意識や知識をもって生まれるのですよ。ですから今お話したこともわかったのではなく、既知のものとして記憶に刻まれてるんです」
「へぇ、便利じゃん」
「一概にそうとも言い切れないのですけどね」
「そうなの?」
「本題はそこではございません」
「あ、あぁ、そうか。ごめん」
「いえ」
「んー、じゃあ、核心っぽいことを聞くわ。世界が滅亡云々ってのは何?」
「それこそがこの話の肝要でございます。世界があなた方の住む人間界をはじめとして次元軸上で重ならない三つの存在で成立していることはご理解いただけましたね」
「えーっと人間界と魔界と天界って事だろ」
「そうです。問題はこの三つの存在のバランスが乱れている事にあります。我々悪魔は、人間界が基盤世界で、そこに付随する人間の意識によって構築されているイメージが他次元との媒介を果たし、魔界や天界という形而上次元で具現化し、成立させているのだと認識しております」
「ん、ごめんごめん。ちょっとわかんなくなってきた」
「そうですね」
悪魔は俺から視線をはなすと、辺りを見回すし脇に置いてあったステッキとシルクハットを手に取る。そして握り拳にした右手を俺の眼前に差し出した。
「この手が人間界とします」
そして人差し指を突き上げる。
「この人差し指がイメージ、つまりあなた方の精神世界です」
もう片方の空いた手で、突き上げた人差し指にステッキを乗せた。
作品名:あいつら役に立たないから。 作家名:武倉悠樹