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 俺は紳士に向かって止めになるはずの一言を放つ。
「俺、神様とか興味ないんでっ!!」
 俺の言葉に紳士は間をおかず続けた。
「あ、えぇ、構いませんよ。私は悪魔ですから」
 このとき今日二度目の時空停止を俺は味わった。
 私は悪魔ですから。
 その言葉の真意を探るべく、必至に考える。
 考える。
考える。
 わからない。
どういうことだ、宗教の勧誘じゃなかったのか。それとももしかして悪魔崇拝とか、なんかよくわからないけど黒魔術チックな変な邪教みたいなやつなんだろうか。だとしたら不味いぞ。邪教を信仰する人の思考なんてまったくもって理解できる気がしない。理解できないと言う事は明確な理由つけて断る事ができないって事じゃないか。
「ええと、ですね」
 こちらの思考が纏まる前に紳士は口を開いていた。
「諸々説明の順番を誤ってしまいましたね、失礼しました。先に申し上げておきますが、私が宮内さんのところをお尋ねしたのは宗教の勧誘ではありません。霊験あらたかな壷や万病に効く水を高額で売りつけたりはしませんし、ましてや悪魔崇拝の黒魔術チックな邪教の信者と言う事もありませんのでご安心を」
 紳士は淡々と俺の心配事を取り除く発言をする。
あまりにも的確に。
 その落ち着き払った言葉に、俺の背筋が凍った。
 目の前の存在はなにか異質なものだ。そう直感が告げる。
 なぜ、この男は俺が頭の中で考えていた懸念を知っているのか。
「それは、私が悪魔だからです」
 さも当然のように、俺の脳内の疑問に答える紳士。
 まるで、俺の意識と会話が出来るかのごとく。
「えぇ、可能です」
 紳士、いや悪魔が嗤った。
「失礼かとは存じましたが、私が悪魔であると言う事を信じていただくため、少々無粋な手段を取らせて頂きました。無礼をお詫びいたします」
 深々と頭を下げながら紳士の姿を模した悪魔は続ける。
 俺の背筋は依然として凍りついたままだ。
「悪魔が存在し目の前にいると言う事があなたの常識にとっていかに荒唐無稽な事であるかと言う事は存じております。しかしこれで信じていただけたでしょうか」
 荒唐無稽とは言え埒外の事実を見せられてしまっては信じる以外術は無い。
「恐縮です」
 悪魔は俺の意識と会話を続ける。
「では、ついでと言っては何ですが、もう一つ私の話を信じてみてはいただけないでしょうか」