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 紳士の言葉に俺の思考はまったくついていけず、間抜けな音が口から漏れる。
 そんな俺を無視して紳士は続けた。
「いえ、このままでは世界が滅んでしまう可能性がでてきてしまうのです。是非とも宮内さんにご協力いただき世直しをしていただけないかと」
 時が止まる。
 そしてこのあたりで徐々に思考の回転が追いつき、それと同時に後悔の念が強く湧き上がり始めた。
 脳内では赤色灯が回り、サイレンがけたたましく鳴り響いている。
 駄目だ。
危険だ。
今すぐにこの男を部屋から追い出せ。
 警告が頭を駆け巡る。
 今、目の前の紳士は何と言ったか。世界が滅ぶから世直しをしなきゃならない、確かにそう言った。
 考えるまでも無く確信する。 
嗚呼、こいつは宗教だ。
「実はですね……」
「あのっ!!」
 世界の滅亡なんていう眉唾の極みみたいなことを口にしておきながら、臆面も無く話を続けようとする紳士の言葉を大急ぎで遮る。
 なんとしてでもこの紳士にはご退出願わねばならない。
厄介者を招きいれてしまった結果が多少の時間的損失、精神的苦痛で済んでる今のうちにだ。
 このまま行くと、霊験あらたかな壷や万病に効く水がこの部屋の仲間入りを果たし、変わりに俺の口座が一足早く冬を迎える羽目になる。
「いかがなさいましたか?」
「あの、ですね」
 俺は意を決して口を開いた。
「わかるんです。あなたの言ってる事」
「おぉ、わかって頂けますか!」
「すっごく良くわかるんですよ。その、えっと、世界が今危機にあることも。そのために、えっと、世直しって言うか、あの世界を救わなきゃいけないんですよね」
「そうです、そうです。その通りなんですよ!それでなん」
「なんですけどっ!」
 これ以上インチキ紳士に口を挟ませるわけにはいかない。こちらは自分の判断ミスから間合いに入られてしまったのだ。会話を成立させてこれ以上不利な状況に追い込まれるわけにはいかないのだ。
「俺には、その世直しとか向かないかなぁって言うか、なんていうんですかね。いや、あの、良いと思うんですよ?世直し。やっぱ誰かのためって素晴らしいですしね、ええ、わかりますよ」
 心にも無い事をペラペラと喋りながら、やんわりと、それでいて確実に拒絶の意を伝える言葉を脳内から引っ張り出す。
「あのっ!」
「はい、なんでしょう?」