あいつら役に立たないから。
俺は誰かのための正義感に溢れるような熱血漢ではないが、世界の滅亡を放っておけるほど暢気でも馬鹿でもない。それに確かに嘘かもしれないが、そう考えて行動した末に、本当だった時の後悔と言ったらないだろう世界滅亡だ。
考えれば考えるほどやらない訳には行かないだろう。選択を誤った時の結果が世界滅亡ではリスクがでかすぎる。
しかし。
少し現実的な思考がよぎた。
目の前の悪魔は「マイナスを減らし、プラスを増やす」と簡単に言ってのけた。しかし大げさな言い方になるかもしれないが、事は世界を救うというスケールだ。もしかしたら今の生活を投げ出してまで取り組まなければいけないような事態になるかもしれない。
ふと自分の境遇を振り返る。
1年生2年生と、特にやりたい事もなく大学に行っていたら、いつの間にか3年の前期で卒業に必要な単位をほぼとり終えてしまった。同級生はこれから就活が待っていると不景気な顔を浮かべているものも多いが、田舎に帰り家業を継ぐという選択肢しか持たない俺には無縁の話で、そもそも大学に入ったのは家業を継ぎたがらなかった俺に対して、親父が「じゃあ、東京で4年間遊ばせちゃるから」と言ったからで、つまりはあと1年半のモラトリアムを俺は確約されている状況にある。
バイトにでも精を出すことも考えたのだが、断れど断れど俺の口座には仕送りが充分すぎる金額振り込まれており、それでもって一度貰ったものに手をつけないで居られるほど俺の人間は出来てなくて、結局悠々自適に何もしない生活を2年半ほど続けていて……。
考えてみれば考えてみるほど随分甘ったれた境遇にあるな、と変な自己嫌悪が湧き上がってきた。
「悩まれるのも当然の事でしょう」
俺が浮かべる表情を読み違えたのか、世界の重圧を背負うことに俺が悩んでいると悪魔は勘違いしている。
その間抜けなズレに悩みは吹き飛んだ。
世界の命運を前にどうでも良い自分のちっぽけさに凹んでいる俺。それを仰々しく慰めてるつもりの悪魔。
そんな間抜けさが引き金でもいいか。
それに世界を救うためにがんばって言るのだと自負できれば、ネクタイ姿の同級生に抱く劣等感も少しは軽減できるのではないか。
一瞬そんな事でいいのかという考えも過ぎるが、目の前の悪魔を見て考えを変える。
作品名:あいつら役に立たないから。 作家名:武倉悠樹