朱く染まる日
「わたしはさみしいよ、おしまいなんて。ずっと南風原くんのこと、見てたもの」
目の前が朱く染まる。風に踊る落ち葉の所為か、相手の顔か、自身の熱が錯覚させているだけか。
「見てたって……え? それ、告白と取るべきなのか?」
「…………かも」
「かも、ってなあ……こっちも困るんだけど。てか、“ずっと”っていつから?」
「小学生の時から。それ以上はあまり聞かないで」
「もしかして、五百住のを断るのも」
「聞かないで……!」
「え、ああ、悪い」
気まずい空気を流すように、或いは冷静になれない二人をからかうように、駆けた風がぴゅうと鳴いた。
互いの顔すら見られない状況に、久良木も南風原も口を開けない。葉がかすれる音色と、通りかかる生徒たちの会話が沈黙から守ってくれた。
突如立ち上がったのは久良木だ。制服に付着した落ち葉を払い落としてから手紙を拾い、南風原から顔を背ける。
「ごめん、忘れて。さよなら」
「ちょ、待てよ!」
歩み出そうとする久良木の腕を掴む南風原。
「待ちたくない!」わめくように訴えても、彼はそれを聞き入れない。
「嫌だ」
「お願い、放して! もう南風原くんのこと見れないの、こんな顔見せたくないの……」
「俺は何も返事してない、なのに一方的に告って逃げる気か?」
「返事なんて期待してない、答えてほしくて言った訳じゃない! 南風原くんの返事がよかったらきっと高校が楽しくなくなる、でもその逆だったら学校へ行けなくなっちゃう! 自分勝手でごめん。でも、それだけ南風原くんが好きって分かってほしかっただけ、迷惑はかけたくない!」
「その意見がもう迷惑だ! 自分勝手って自覚しているなら、せめて俺の答えを聞け!」
南風原が怒鳴ると、久良木が体を強張らせ抵抗を止める。南風原は息を一つ吐き、少し頭を掻いてから、彼女の頭に軽く手を乗せる。