朱く染まる日
翌日はいっそう冷え込み、昼休みでも冬の訪れを肌に訴える。教員がこの学校はこんなにオウムがいたのかと笑うまでに、生徒たちは口々に「寒い」と繰り返しぼやいている。
ただし南風原はそのような仕草を見せず、平然とした顔で自分の机に足をかけている。彼に羨望の眼差しと「人間じゃない」という冗談混じりのけなし文句が集中した。
久良木はぼんやりと過去の記憶を蘇らせる。彼は昔から寒気には耐性があった。今でこそ大人しいが、小学生の頃は雪が降った子犬のようにはしゃぎ回り、寒さで凍えている久良木を始めとする見学組にも容赦なく雪玉をぶつけ「早くこっちに来いよ」と強引に誘っていた。
冬でも元気、と言われればそうではなく、夏は大量の汗をかいた所為で水分のほとんどを体の外に出してしまい、別人の如く息を荒くして動きたくないと駄々をこねていた。要は、冬が好きすぎる生粋の冬生まれなのだ。
紅葉を愛する生粋の秋生まれな自分と似ている。胸中に浮かんだ言葉が何となく嬉しくて、久良木は控えめに笑んだ。
もし、『私たちって似ているね』なんて気軽に話しかけることが出来たら。だが、今年最大の勇気が空振りしたばかりでそんなこと出来る訳もない。
今度はため息が漏れる。
「久良木さん」
隣から突如声がした。反射的に首を動かすと、かがみながらこちらの顔を覗き込んでいる男子生徒と目が合った。その瞳は強張りながらも穏やかな色を浮かべている。
同じ中学三年生、“2組”の五百住(いおずみ)だ。一年の頃は久良木と南風原同様“3組”に所属していた。健康的に痩せている体型と気配り上手な面が、一部の女子と大半の後輩にウケがいい。ただし久良木にとっては一人の同級生に過ぎない存在だ。
「少しお話があるんだけど、いいかな?」
「え?」
周囲が騒ぎ始めた。違うクラスの訪問者としてただでさえ目立っているのに、異性に話を持ちかけるなんて。
脳裏に昨日の南風原が現れる。
『俺の友だちがお前のことを気にかけててな――――』
そういえば、と小さくひらめく。南風原と五百住は一年時に仲良くなっていて、よく二人で遊びに行っていた。今でも付き合いはあるらしい。
久良木がつばを呑み込む。ごくっ。
「……何?」
「違う所で話したい。……二人きりになれる場所で」