朱く染まる日
「え、嘘でしょ?」
「ここで嘘ついてどうするんだよ。まあ、顔も性格も悪くないから可愛いって思われやすいんだろな」
どき。南風原の台詞に含まれた単語を耳にし、歓喜のあまりに胸が痛み、無意識に歩を休める。
「……南風原くんも、そう思ってる?」
今年最大の勇気が込められた発言。その勇気に停止信号を出されたらしく、南風原もピタリと足を止める。顔は前を向いたままだが。
「…………さあ」
「その答え、ずるい」
「他に何て言えばいい訳?」
「……そうだよね、ゴメン」
「謝ることでもないって」
無愛想な口振りの一言を残して、南風原は早足で去って行く。
久良木の体内時計が煙を上げて故障する。停止した世界では呼吸すら許されず、通り過ぎたそよ風が残した寒気だけが彼女に時間の経過を伝えていた。
「……寒い」
もうすぐ冬がやってくる。