朱く染まる日
たくさんの木々に見守られている通学路は、この時期になると紅葉によって色鮮やかな風景に変化する。
普段は夕暮れにその道を通るのだが、今日は少し時間が早い。理由といえば、斜め三歩前で歩いている想い人。数ヶ月前から胸につっかかる疑問を尋ねたくて、彼の普段の下校時間に合わせたのだ。
だからといって話しかける勇気は持ち合わせていなくて、ただ彼の歩いた道を沿うように進むしか出来ない。
「久良木」
「え?!」
向こうから声をかけてくれば、驚きで両肩を跳ねさせる。南風原が足を止めて自分を見、声をかけたのだと気づけば、顔がどんどん熱くなる。
「……キンチョーしすぎ、名前呼んだだけなのに。お前、異性苦手すぎね?」
「そ、そんなことないよ」
否定の言葉は後者に向けたもの。確かに久良木は異性を苦手としているが、少なくとも南風原は特別な存在なので苦手に分類されない。
「ところで……どうしたの、南風原くん。名前呼んだだけ、じゃないよね?」
「そりゃ、意味もなく呼ぶ名前にしては面倒だろ、キュウラギって」
心の中で、落胆した際の効果音が響く。がーん。
「そんなに、面倒かな」
「ハエバルといい勝負だって。それよりさ、お前、好きな男のタイプってどんなの?」
今度は効果音どころか、世界の色すら落ちてしまう。モノクロの景色を映し出す目は、これ以上なく大きく見開いていた。
ここで『南風原くん』と言える勇気があったのなら、その勢いで逆プロポーズをしかねない。それほどまで、その疑問に答える余裕などなかった。
「な、なんで……?」
「いや、俺の友だちがお前のこと気にかけててな、聞いてみろって言われて」
ああ、やっぱりその程度か。心の中に本日二度目の効果音がした。がーん。
「……それで素直に実行したの?」
「俺も自分で聞けって反抗したさ。だけど、これ聞いたらもう頼らないって譲らないから、まあ仕方なく」
久良木は音にならないほど小さくつぶやく。「仕方なく、じゃないよ、もう……」
「で、答えは?」
「………………えっと、ノーコメント」
「了解。そのまま伝えておくよ」
安堵の息が体中から漏れた気がした。もしここで追究されていたら、久良木は死ぬほど羞恥心を感じていた。
南風原がまた歩き出すと、慌ててその後を追いかける。
「にしてもお前、モテるよな。お前を気にかけてる男、俺が知ってる中では二人目」