レイニーガール
いつも雨に濡れていた頬を流れているものが雨だけじゃないことに気づいたのだ。
悲しみの言葉を投げつけられても、孤独と冷たさに身を震わせていても、自分は大丈夫だと思っていた。
今までも悲しくなかった訳じゃない。
でも、その悲しみは誰かを救うためにその身にためこんだものだったから。
だから大丈夫なはずだった。
そして、だから気づかなかったのだ。
孤独と冷たさ、そして罵りと謗りが、彼女の心につけた傷がいつしか耐えられない程に深くなっていることに。
彼女は雨に打たれながらうずくまってしまった。
――どうしよう。
彼女は戸惑いを隠しきれなかった。
彼女は悲しむ人を助けるために頑張っていたはずだった。
誰の何という罵声が引き鉄になったのかはわからない。
だがしかし、今まで彼女の心に溜まっていた悲しみはついに彼女の心の器から溢れだしてしまった。
自分の心を満たす悲しみに気づいたとき、彼女は動けなくなってしまった。
――どうしよう。
人々の言葉と視線が怖かった。
寒さに体の震えが止まらなかった。
心の悲鳴は雨音にかき消されていく。
為すすべもなく雨に打たれ、うずくまりながら彼女は涙を流し続ける。
――誰か。
――誰か。
――雨を止めてはくれないか。
ふと、凍える身を打ち続ける雨が止んだ。
驚き彼女が顔を上げると、そこには一人の少年が立っていた。
雨に濡れる彼女に傘を差し出しながら。
「お姉ちゃん、大丈夫?濡れちゃうよ?」
少年は、彼女が誰しもに疎まれている雨の魔女であると知らないのだろうか。
雨に濡れうずくまる人に傘を差しだし、声をかける。
たったそれだけのこと。
そんな当たり前の行為は、しかし彼女に大きな衝撃をもたらした。
――なんでこの子はこんな気味の悪いわたしに優しくしてくれるんだろう。
言葉の暴力と孤独にすっかり傷つき冷たくなった心に仄かな暖かみが灯る。
「寒くないの?」
少年が心配そうに彼女の顔をのぞき込む。
今までこんな言葉をかけてくれて人は居なかった。
「ボクん家すぐそこだから、この傘はお姉ちゃんにあげるよ!!」
屈託の無い笑顔で少年が善意を表す。
今までこんな笑みを向けてくれた人は居なかった。
涙はまだ止まらない。
しかし彼女にはわかっていた。
今流れている涙が悲しみから生まれたものではないことを。
だからこそ彼女は自らを諫めた。