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レイニーガール

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彼女はなんのために、温もりを失い震える体で雨に打たれ続けるのか。
なぜ、誰とも関わらず、独り立ち続けるのか。
口さがない噂が後を絶たなかった。
どこかの閉鎖病棟から抜け出してきた精神疾患患者だと、汚物を見るような目を向けるものが居た。
雨が強かった日に殺された女の怨霊だと、おもしろ半分に吹聴する輩が居た。
雨を呼ぶ魔女だと、彼女に向かって石を投げつける子供達が居た。
数多の奇異と嫌忌の視線が彼女を貫く。
それでも彼女は独り雨と共にあり続けた。

なぜか。
彼女は雨を知っていたからだ。
人々を冷たく濡らし、足下を危ぶませ、顔から喜色を奪う雨が、いったいなんなのかを。
では彼女が知るという雨とはいかなるものか。
雨は悲しみに呼ばれてくるものだ。
親しい人の不幸に涙する人あれば、雨は降る。
夢破れ悔しさに歯噛みする人あれば、雨は降る。
雨とは悲しみに呼ばれて、その悲しみに暮れる人を冷たく打ちつける非情な存在。
それが雨である。

彼女は雨を知っていた。
雨が降っているところには、悲しみを抱えながら温もりを奪われ震える人が居ることを。
彼女は思った。
――なぜ、可哀想な人がさらに可哀想な目に遭わなければならないのか。
彼女は思った。
――雨に打たれる人々を救う事はできないのだろうか。
それから彼女は不幸になろうとした。

彼女は悲しみをその身にため込もうとした。
――私が一番不幸になれば、雨は私を冷たく打ちつけるだろう。
そう彼女は考えたのだ。
それから、彼女は冷たい雨を傘も差さず受け止めた。
冷たい雨が体温を奪った後、今度は人を避け孤独を探した。
独り雨に濡れる彼女を気味悪がった人々は悪辣な言葉を彼女に投げかける。
それは彼女にとってとても好都合だった。
心が悲鳴をあげるかと思うほど、悲しい言葉の数々だったから。
こうして、彼女は行く先々で悲しみを纏っては、雨を引きつけて、どこかへ去っていくということを繰り返した。

彼女は悲しみ続けた。
力無く濡れる誰かを雨から守ってあげられたと喜ぶ事は許されなかった。
そこに喜びを感じたとき、雨は彼女じゃない誰かを冷たく打ちつけることになってしまうから。
だから、彼女は悲しみ続けた。
心の悲鳴を無視し続けて。

ある時、彼女は自分が涙をこぼしていることを知った。
作品名:レイニーガール 作家名:武倉悠樹